最新記事

米財政

共和党の予算削減で7万人の子供が死ぬ

期限切れを前に予算審議が難航する米議会で、共和党がオバマに突きつけた援助大幅削減の近視眼度

2011年4月1日(金)16時58分
ジョシュ・ロギン

頼みの綱 ハイチの首都ポルトープランスでUSAIDから支給された米袋を運ぶ女性 Carlos Barria-Reuters

 米議会では予算をめぐって与野党の攻防が続いている。そんななか米国際開発庁(USAID)のラジブ・シャー長官は3月30日、共和党の予算案はアメリカによる食料・医療支援に頼って生きている世界の子供たちの死につながると下院の小委員会で訴えた。「H.R.1案は7万人の子供たちの死につながるだろう。しかもこれは非常に控えめな試算だ」

「7万人のうち3万人はマラリア対策の規模縮小によるもの。予防接種などへの援助が途絶えることで2万4000人、そして助産師の不足による1万6000人だ」

 既に下院を通過した共和党の予算案H.R.1は、11年度(10年10月〜11年9月)の残りの予算を決定するものだ。これは事実上、オバマ政権が提示した11年度の予算要求から16%をカットすることになる。

 ジェシー・ジャクソンJr.下院議員(民主党)は、H.R.1では国際災害援助(IDA)に充てられる予算は4億3000万ドルだと指摘する。これはオバマの11年度予算要求の半分で、10年度からは67%のカットになる。

 シャーは、こうした削減により「アメリカの人道支援活動が、この数十年で最も劇的な後退をみることになるだろう」と語る。IDAからはダルフールでの160万人への支援費が出されており、これを半分にすることは80万人の命を危険にさらすことになると言う。予算削減は「貧困や紛争地で暮らす人々への食糧や医療支援プログラムの大幅な縮小を招く」

途上国支援は米経済にも寄与

 シャーはさらに、オバマ政権の12年度予算要求も擁護した。こちらも議会で削減の危機にさらされているものだ。小委員会委員長を務めるケイ・グレンジャー下院議員(共和党)は、12年度予算要求は最初から否決が明らかだとしている。

「私はこうした支援プログラムの重要性を理解しているが......、現在の予算を取り巻く環境を考えれば非現実的だ」とグレンジャーは述べた。「過去に予算を出したところすべてに予算をつけることはできない。そしてもちろん、重複し無駄なプログラムに資金を出し続けることはできない」

 グレンジャーは、安全保障に関連したり、イラクやアフガニスタン、パキスタンで進行中の軍事活動に寄与するUSAIDのプログラムは支持すると言う。

 一方、ニタ・ロイ下院議員(民主党)は、イラクやアフガニスタンに限らず世界のどこであろうと不安定な地域があればアメリカの安全保障の脅威になると主張した。「USAIDへの大幅な予算カットは世界情勢の不安定化につながりかねない。そうなれば米兵の命や、わが国の富が危険にさらされるだろう」

 シャーは、対外援助は長期的にみれば米経済にとっても極めて重要だと論じた。アメリカの商品が消費される市場を育てることになるからだ。「USAIDの任務は米経済にも寄与する。世界経済のピラミッドの底辺にいる消費者との関係を築くことにより、新興市場への米企業の参入が容易になる。輸出の促進や雇用の創出につながるのだ」

Reprinted with permission from "The Cable", 29/01/2010. © 2010 by The Washington Post Company.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独成長率、第4四半期速報0.1%減 循環・構造問題

ワールド

米国の新たな制裁、ロシアの石油供給を大幅抑制も=I

ビジネス

ユーロ圏鉱工業生産、11月は前月比+0.2%・前年

ワールド

インドネシア中銀、0.25%利下げ 成長支援へ予想
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン」がSNSで大反響...ヘンリー王子の「大惨敗ぶり」が際立つ結果に
  • 4
    「日本は中国より悪」──米クリフス、同業とUSスチ…
  • 5
    ド派手な激突シーンが話題に...ロシアの偵察ドローン…
  • 6
    大麻は脳にどのような影響を及ぼすのか...? 高濃度の…
  • 7
    日鉄はUSスチール買収禁止に対して正々堂々、訴訟で…
  • 8
    ロシア軍高官の車を、ウクライナ自爆ドローンが急襲.…
  • 9
    TikTokに代わりアメリカで1位に躍り出たアプリ「レ…
  • 10
    中国自動車、ガソリン車は大幅減なのにEV販売は4割増…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分からなくなったペットの姿にネット爆笑【2024年の衝撃記事 5選】
  • 4
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 5
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 6
    ロシア兵を「射殺」...相次ぐ北朝鮮兵の誤射 退却も…
  • 7
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「…
  • 8
    装甲車がロシア兵を轢く決定的瞬間...戦場での衝撃映…
  • 9
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 10
    トランプさん、グリーンランドは地図ほど大きくない…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中