最新記事

告発文書

ウィキリークスの機密情報は「事実」か

生のまま垂れ流されたリーク情報は万能じゃない

2010年11月11日(木)15時18分
クリストファー・ディッキー(中東総局長)

生の機密情報は厄介だ。「生半可な知識は危険だ」と、18世紀の英詩人アレキサンダー・ポープも戒めていた。話題の内部告発サイト「ウィキリークス」が公開した米軍の膨大な機密文書の垂れ流しも、実に危険極まりない。

このたびリークされたのは、命懸けでアフガニスタンやイラクの戦場にいる米兵たちが、状況もよく分からないまま書きつづったものだ。それが生のままで公開されれば、みんなが自分に都合の良い部分だけつまみ食いするようなことが起きる。戦争反対のリベラル派や穏健派はウィキリークスのやり方を原則として支持しているが、過激派の喜びそうな内容がたっぷり含まれることを忘れてはならない。

 既にタリバンは、これらの文書から米軍への協力者を割り出そうとしている。もっと危険なのはイランに関する部分だ。そこにはイランとアメリカの戦争を望む勢力を利する情報が含まれている。

昔かたぎのジャーナリストなら、恐れずに事実を書け、そうすれば最後には真実が勝つ、と言うだろう。むろん、この場合の「事実」は事前にチェック済みでなければいけない。ウィキリークスのように、生の情報を垂れ流すのとは違う。

イラク駐留米兵に対する攻撃にイランが加担していたと聞かされれば、どんな平和主義者もイランへの攻撃は当然という気分に傾くのではないか。イランがレバノンのイスラム過激派組織ヒズボラともども、イラクのゲリラに米兵奇襲のやり方を手ほどきし、米軍の装甲車両を吹き飛ばせるほど強力な路肩爆弾を与えていたとする文書もある。

矛盾といかがわしさだらけ

 イランの爆弾や奇襲に関する情報は驚くほど具体的だが、話としてはどれも目新しいものではない。しかしアメリカ国内のタカ派は、これら「新たに暴露された機密書類」をイラン攻撃の根拠として利用できるだろう。

 何しろ今は、イランが原子炉に燃料装填作業を始めた時期。アメリカ人が中間選挙に気を取られていなかったら、イランとの軍事的な緊張は日増しに高まっていたに違いない。

 ウィキリークスは、古びた話を火の付きやすい形で提示しているだけだ。その文書に「正確で軍隊式」と記されている拉致方法は、もともとイランやヒズボラのお家芸だ。それを教わったイラクの武装勢力は、早速実行に移した。06年にはイランで訓練を受けたイラク人が首都バグダッドのトンネル内で米軍攻撃を企てたが、これは発覚して失敗。だが1カ月後、別の場所にいた米軍が似たような手口で襲われて1人が即死、ほかの4人も拉致後に殺害された。

 アメリカ人旅行者3人が昨年夏、イラク北部をハイキング中に誤って国境を越えてイラン側に拘束された事件についても、一連の文書は矛盾だらけの情報を垂れ流している。例えば昨年書かれたある文書は、この3人がイラン人によってイラク領内で拘束されたとしている。イランを悪者に、この3人を殉教者に仕立てたい人たちが大喜びしそうな内容だ。

 旅行者の1人サラ・ショードは解放されたが、シェーン・バウアーとジョシュ・ファタルの2人は刑務所に収監されたままだ。イラン検察は彼らをスパイ容疑で起訴する方針を固めたが、ウィキリークスの公開文書の中には、そのイラン検察が喜びそうな記述もある。

 事件が起きた09年7月当時、イラン政府は大統領選挙後の大規模な反政府デモの衝撃から立ち直れずにいた。そして、何とかして外国人スパイによる陰謀というストーリーをでっち上げようとしていた。そこへ登場したのがこの3人だ。もちろん3人の親族はスパイ説を真っ向から否定している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 10
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中