最新記事

格差

ゲイツ=バフェット、慈善のなかの偽善

中国まで行って寄付集めもいいが、金持ちのためのブッシュ減税を諦めたほうが社会のためだ

2010年10月1日(金)16時47分
デービッド・ロスコフ(カーネギー国際平和財団客員研究員)

長者番付1位と2位 チャリティーパーティーの前日、北京の投資先を訪問したバフェット(左)とゲイツ(9月29日) Jason Lee-Reuters

 マイクロソフト創業者のビル・ゲイツと著名投資家ウォーレン・バフェットの訪中が一定の成功を収めたのは喜ばしいことだ。億万長者は個人資産の最低半分を慈善事業に寄付しようという2人の呼びかけに、中国の多くの大富豪が「寛大な贈り物」を約束したようだ。米長者番付の1位と2位を占めるスーパーリッチ慈善コンビがこうして集めた資金は既に1500億ドルに達している可能性もあるという。

 ひと握りの大富豪に自主的に資産を寄付させて所得格差の解消に役立てようという行為自体には、けちのつけようがない。それでも、ゲイツとバフェットの追い風になっている慈善ブームには落とし穴もあることは認識しなければならない。

 世界の問題を解決するためにどう資産を分配すべきかの判断をゲイツら一部の大金持ちに委ねるのは、金で政治的影響力を買ったり金儲けのために社会を利用することを許すのと同じくらい不公平だ。どれだけ善意であっても、彼らが誰の監視も受けない権力であることに変わりはない。人間だから偏見だって持っている。

 慈善は公共部門と共に社会のニーズを満たす有効な手段だが、それも時には、金持ちの政治的な目的を達成するための隠れ蓑に使われるかもしれない。社会保障費はもっと削れるとか、金持ち増税は必要はないとか、現在の経済システムに内在する不平等も問題ない、等々......。

将来の世代にまともな人生を

 もちろん巨額の寄付をしてくれる億万長者は賞賛されるべきだ。だが同時に、たった千人の大富豪に最貧困層25億人に匹敵する富が集中し、世界60億人の天上に君臨してしまうような欠陥システムの修正も忘れてはならない。

 寛大な億万長者には、さらに多くを求めるべきかもしれない。たとえば、大金持ちが下々に押し付けている所得税負担について、もっと庶民の発言権が強くなるよう運動してもらおう。

 実際税制改革は、中間選挙へ向けて画期的かつ感動的なテーマになるだろう。アメリカの高額所得者が結束して、ブッシュの金持ち減税を予定どおり10年末で期限切れにさせるために戦うのだ。そうすれば、少数の金持ちを繁栄させるために孫子の分まで国が借金しなければならないシステムは変わる。

 将来世代が親の世代の借金の返済に汲々とするのではなく、まともに暮らしを立てられるチャンスを与える──それこそ、本当の慈善だろう。

Reprinted with permission from David J. Rothkopf's blog, 1/10/2010.©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米側の要請あれば、加藤財務相が為替協議するだろう=

ワールド

次回関税協議で具体的前進得られるよう調整加速を指示

ワールド

イスラエル、ガザで40カ所空爆 ハマスが暫定停戦案

ワールド

ロープウエーのゴンドラ落下、4人死亡 ナポリ近郊
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判もなく中米の監禁センターに送られ、間違いとわかっても帰還は望めない
  • 3
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 4
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 5
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 6
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 7
    ノーベル賞作家のハン・ガン氏が3回読んだ美学者の…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 10
    トランプが「核保有国」北朝鮮に超音速爆撃機B1Bを展…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 7
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 8
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中