最新記事

危機管理

BP原油流出後の姑息な火消し戦略

イメージダウンや賠償責任を最小限に見せようとして墓穴を掘ってしまった石油メジャー

2010年5月20日(木)19時04分
ダニエル・ストーン(ワシントン支局)

2次災害 商売柄、災害対応や世論対策は得意のはずのBPなのに Dylan Martinez-Reuters

 メキシコ湾で大規模な原油流出事故を起こした国際石油資本の英BPは、危機に瀕した企業イメージと社運を救うためにきわどい対応を迫られている。

 事故に対する世論の怒りを鎮めるための対策を採らなければ、企業イメージはあっという間にズタズタになってしまう。かといって事故の影響をことさら小さく見せかけようと攻撃的かつあからさまなPR活動をすれば「環境への影響よりも利益を優先する企業」というレッテルが貼られてしまうに違いない。

 そこでBPの経営陣は通常とは異なる危機対応に打って出た。事故が世界的に大きな話題になるのを避けるため、ローカルな規模で対処しようとしているのだ。

 リークされた内部文書によると同社は、ガソリンスタンドなど実際に消費者と接触している現場に向けて、謙虚で面倒見のいい企業というイメージ作りに向けた本社の努力に水を差すような広告を勝手に出してはならないと指示を出したという。

 幹部から系列スタンドなどの関係者に向けたメッセージはこうだ。「この微妙な時期、現状に鑑みてマーケティングのプランについてみんなも一緒に見直してみてもらいたい。また、消費者との接触は主にBPの営業所や地元コミュニティで行い、BPのブランドを支えるためにさらなる努力をしてもらいたい」

 具体的には「否定的な発言を拡散またはそらし、BPブランドを支える効果の期待できるクチコミの輪」を作ることを勧めている。

 ロンドンに本社を置くBPは通常、ローカルな広告費のうち5割を負担している。だが本社の用意した広告をそのまま系列スタンドが使う場合、費用は100%本社持ちだ。

株価を見れば嘘もつきたくなる?

 事故発生以来、BPは世論が問題(そして同社の責任)を大きく捉えすぎないようにと対策を練ってきたがほとんどが裏目に出た。

 例えばBPが当初見積もった流出量は、同社と関係のない専門家の分析によれば少なすぎだったらしい。またBPがメキシコ湾岸の住民に対し、損害賠償額に上限を設けるとする内容の和解文書への署名を迫っていたことも発覚した(連邦裁判所は同社に、この文書の撤回を命じた)。

 BPはメキシコ湾岸の観光促進CM(ビーチは汚染されておらず、夏休みの予約をキャンセルするには及ばない、という内容)のスポンサーにもなった。だがこのCMを見た周辺住民は「被害は伝えられていたほど大きくない」と伝えるために自分たちの姿が利用されたような印象を抱いた。

 BPが原油の流出規模を小さく言おうとするのも無理はない。事故以来、BPの株価は19%も下落。アメリカの水質浄化法によれば、BPは現在伝えられているよりもはるかに多い賠償金を支払わされる可能性がある。

 この法律では「石油や有害物質を出す沖合の施設」を稼働させている企業は、流出した石油1バレルあたり1000ドル(今回のケースでは1日あたりの合計7000万ドル)を上限に賠償責任を負うと定められている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル

ワールド

香港警察、手配中の民主活動家の家族を逮捕

ビジネス

香港GDP、第1四半期は前年比+3.1% 米関税が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中