最新記事

医療改革

皆保険恐怖症アメリカ、最新の大嘘4つ

2010年4月1日(木)18時24分
ティモシー・ノア

 このプロジェクトは「さまざまなプログラムや政策、インフラ整備」を伴うだろうから、何かを建設することも含まれるかもしれない(事故の原因になりかねないジャングルジムをわざわざ作ろうという話になるとは思えないが)。

 ではマテーラの言う70億ドルはどこから来たのか?

 改革法案には「必要とされるであろう総額」としか書かれていないし、議会予算局の推計でもこの交付金のコストは「0ドル」となっている。これはたぶん、議会がどの程度の予算規模を適性と考えるかが分からないということだろう。

 だいたい70億ドルの予算を投じることになったとしても、それは交付金の総額であって学校への交付額ではない。

職場がトップレスOKに?

 マテーラがどういう意図から「職場で授乳させる義務」について文句を言っているのか、私にはよく分からない。

 まず最初に、そんなものは義務化されていない。今回の改革法を含めたいかなる連邦法にも、上司が出産間もない女性の部下に「職場に赤ん坊を連れてこないように」と命じてはならないという規定はない(24の州では職場での授乳に関する法律が制定されている)。

 改革法案の1217ページに書かれてるのは、雇用主は乳児を育てている女性に対し「出産後1年間は、搾乳するための適切な休憩時間」を与えなければならないという規定だ。

 搾乳というのは赤ん坊から1日中離れて過ごしている母親がやることであって、オフィスに子供を連れてきている人がやることではない。

 もしマテーラが職場で同僚の乳首が見えてしまうことを心配しているのなら、頭を冷やしたほうがいい。改革法では搾乳のために「他人の視線からさえぎられ、邪魔されることのない、トイレ以外の場所」を用意するように規定されているのだから。

 もしママたちの仕事が遅れることを心配しているのなら、搾乳には10〜15分しかかからないことを知っておいたほうがいい。タバコを一服するのと変わらない時間だ。

 もし中小企業の負担になることを心配しているのなら、従業員50人以下の企業で規定に従うことが「かなりの困難や費用」を伴う場合には適用免除になることを覚えておこう。

予防接種が強制化される?

 改革反対派は改革法によって予防接種が義務化されたわけではないことは認めている。だが医療保険への加入(こちらは義務化された)のためには「自分が予防接種をきちんと受けていることを証明しなければならない」と主張している。

 ちょっと待ってほしい。私はこの20年間に4つの医療保険を利用したが、保険会社から私自身や子供のワクチン接種記録を提出するように求められたことはない。確かにインフルエンザのワクチンを打つように(そして運動して健康的な食生活を送るように)勧めるニュースレターは送られてきたが、強制では決してなかった。

 中にはワクチン接種を求める保険会社もあるだろう。だが、それが嫌なら別の会社を選べばいい。

 医療改革法をめぐってはもっととっぴな風説も存在する。だが、私が知る中ではこの4つが最もいかれた例だった。

*Slate特約
http://www.slate.com/

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=まちまち、トランプ関税発表控え

ワールド

カナダ・メキシコ首脳が電話会談、米貿易措置への対抗

ワールド

米政権、軍事装備品の輸出規制緩和を計画=情報筋

ワールド

ゼレンスキー氏、4日に多国間協議 平和維持部隊派遣
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中