最新記事
SNS

BLACKPINK、TWICE、NewJeansだけではなかった 韓国ディープフェイク性被害は中学生や女性兵士にまで

2024年9月5日(木)14時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

批判の高まりに、警察もテレグラフを調査

一連のディープフェイク問題が社会問題化したことで、これまで本腰を入れて対応してこなかった警察も、重い腰上げて対策に乗り出し始めた。

これまで警察がこの問題について本格的な捜査をしなかったのは、ディープフェイク画像の配布が、秘匿性の高いSNSテレグラムによって行われているという部分が大きい。また最高裁の量刑基準ではディープフェイクを制作、配布した場合、加重処罰まで受けても最大懲役2年6カ月に止まる。さらに被害者が成人の場合は、現行法では制作した者だけが処罰対象で、所持や視聴については処罰できないという問題もある。

ただ、意外なところから状況に変化が起きた。8月24日、フランス政府はテレグラム創業者であるパーベル・ドゥロフCEOをパリで逮捕。オンライン性犯罪、麻薬流通など各種犯罪の幇助および共謀した疑いで起訴した。ドゥロフは25日に保釈されたが、フランスからの出国は禁じられた。

こうしたなか、警察庁のウ·ジョンス捜査本部長は9月2日、定例記者懇談会で、「フランスで行ったように、ソウル警察庁がテレグラム法人に対して立件前の調査に着手した。容疑は今回の犯罪(ディープフェイク画像などの犯罪)幇助に対するものだ」と明らかにした。

ウ本部長は「テレグラムはアカウント情報などを我われだけでなく米国など他の捜査機関にも提供しない」として捜査上の困難を認めたが、その一方で「テレグラムを利用した犯罪を今まで全く検挙できなかったわけではない」として「我われなりの捜査手法があり最善を尽くして捜査している。フランス捜査当局や国際機関などと協力し、この機会にテレグラム捜査ができる方法を探してみる」と語った。

テレグラム側、一部画像の削除に応じたが

また、韓国の放送通信について審議する放送通信審議委員会は、従来、有害コンテンツの削除要請を無視してきたテレグラム側が一転して削除に応じ、さらに連絡用のメールアドレスを通知してきたと発表した。放送通信審議委員会は、インターネット上のコンテンツについて、北朝鮮関連のものや性的なものなどを確認した際に韓国内からの接続を遮断するかどうかを決定している公的機関だ。

放送通信審議委員会は9月3日、「テレグラムが東アジア地域関係者による公式Eメール書簡を送付し、緊急削除を要請したデジタル性犯罪映像物25件を削除し、謝罪の意と共に信頼関係構築の意思を明らかにしてきた」として、「事態の深刻性を認識しディープフェイク問題を解決することはもちろん、デジタル性犯罪の撲滅のための強固な協力関係を固めていくことを期待する」と話した。

一方で、プラットフォーム企業が違法・有害コンテンツを積極的に削除しない場合、厳重処分しなければならないという意見が政治家から上がってきており、現在開会中の韓国国会でも審議の争点になると見られている。与党・国民の力のコ・ドンジン議員は当事者の同意を得ていないディープフェイク映像の制作から販売・配布・利用までを幅広く処罰する包括的ディープフェイク防止および処罰法を発議。最大野党・共に民主党のチョン・ジンスク議員は、匿名性が保障される情報通信サービスを利用した性犯罪を加重処罰する性暴力犯罪の処罰などに関する特例法改正案を発議している。

2019年のバーニングサン事件における芸能人の盗撮問題、そして2020年のn番部屋事件と、韓国では女性を対象としたわいせつ動画などの問題が過去にも社会的な問題となってきたが、こういった事件に対して抜本的な法整備が行われてこなかったことが、今回のディープフェイク問題を引き起こした遠因と言われている。果たして、今度のディープフェイク問題では、抜本的な解決ができるかどうか、今後の展開が注目される。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

マネタリーベース3月は前年比3.1%減、緩やかな減

ワールド

メキシコ政府、今年の成長率見通しを1.5-2.3%

ビジネス

EUが排ガス規制の猶予期間延長、今年いっぱいを3年

ビジネス

スペースX、ベトナムにスターリンク拠点計画=関係者
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中