SUVのEVは、さらに危険な車になり得る
A DEADLY MISTAKE
例えばGM傘下シボレーのSUV「ブレイザーEV」は、走行開始からわずか4秒程度で時速100キロを出せる加速性能がある。テスラの「モデルXプレイド」はさらにパワフルで、2.5秒程度で時速100キロに達する。
メーカー各社は、こうした加速性能をセールスポイントにしているが、そんな性能は現実にはなんの役にも立たない一方で、万が一のとき、歩行者や車椅子の人から危険を避ける時間を奪う。
それなのにメーカーが加速性能を喧伝していることは、この業界の根本的な問題を示している。つまり電動化を機に、より安全でクリーンな自動車を作ろうとするのではなく、既存のデザインや基準を電動化時代にも持ち込もうとしているのだ。
これは間違っている。
例えば、フォードの「F-150ライトニング」は、ボンネットの下のガソリンエンジンが不要になったのだから、ノーズに向けてフロントを低く傾斜させるデザインにすれば、ドライバーの視界が広がる。さらに万が一歩行者や自転車に衝突したときも衝撃を軽減できるだろう。
それなのにフォードはそうした工夫をせずに、ガソリン車モデルと同じ車高を維持して、ボンネット下は収納スペースにした。
電動化に伴うこうしたリスクは回避できる。例えば、NHTSAが公道における加速スピードを規制をすれば、メーカー間の無謀な競争を防止できる。
また大型EVの殺傷度の高さを考えると、車両重量に応じて登録料金などを高く設定するべきだ。こうすれば消費者の意思決定に影響を与えられるし、メーカーが1回の充電で走行できる距離を伸ばすだけではなく、バッテリーの重量を減らす改良にも力を入れるよう促せる。
実際、EVの航続距離に関する不安は行きすぎだ。ニューヨーク・タイムズ紙は最近、「航続距離300マイル(約480キロ)のEVが欲しい? あなたがそんな長距離を最後に走ったのはいつ?」と題した論説で疑問を呈した。
むしろ、行政はもっと安全基準を厳しくして、EVへの切り替えを機に、もっと安全な車をデザインするようメーカーに要求するべきだ。連邦政府の新車評価プログラム(NCAP)に、歩行者保護の項目を追加することは、その第一歩になるだろう。既にヨーロッパやオーストラリア、日本にはこうした基準がある。
残念ながら、今のところアメリカでは、議会にも規制当局にも、自動車の電動化を機に環境に優しいだけでなく、より安全な車を推進する意欲は感じられない。
気候変動対策と、交通事故死の増加を食い止める努力が、二者択一である必要はない。だが、そのためには先見の明とイニシアチブが必要だ。
アメリカの連邦政府のリーダーたちは、それを示す必要がある。
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