韓国、犬の虫下し薬でがん治療 患者相手に違法な輸入代行まで
得体の知れない治療法の発信源は?
いったい、犬用虫下し薬ががんに効くという話はどこからやってきたのだろうか? この噂が広まり始めたのは今年の9月頃だった。アメリカ・オクラホマ州在住のジョー・ティッペンズという人物がYouTubeで、「自分は末期の小細胞性肺がんだったが、犬用の虫下し薬を服用した結果完治した」という衝撃の動画を配信した。動画によると、彼は、2016年に余命3カ月の診断を受け、その後2年間薬を服用し続けたという。この動画ががん患者を中心に広く拡散され、韓国で虫下し薬ブームが始まったのだ。
しかし、ジョー・ティッペンズの動画の信ぴょう性に疑いを持つ人も多い。11月28日、韓国の報道番組『イ・ギュヨンのスポットライト』では、早速この話題を追跡している。番組内でスタッフは彼のカルテと完治結果を入手、公表し話題となった。ジョー・ティッペンズ本人は「がん細胞は、肺以外にも首や胃、肝臓など全身に広がっていた」と証言していたが、スタッフが確認したCTスキャンでは、肺と肝臓のがんのみが確認された。
また、アメリカでの報道では、証拠として使用されたCTスキャンは彼のものではなく、一般資料用写真だったことも発覚している。さらに、犬用の虫下しで完治したと主張しているが、彼は、余命3カ月宣告がされてから医師の提案のもと、1年以上も「新薬K」と呼ばれる抗がん剤の臨床試験に参加していたことがカルテに記載されていた。このことから、必ずしも犬用の虫下しががんに効いたとは言えない、という声があがっている。実際、先に紹介したお笑い芸人のキム・チョルミンも虫下し薬のほかに、放射線による抗がん治療を併用しているのだ。
医療関係者は服用しないよう呼びかけるが
こうした騒動を受けて、韓国の食品医薬品安全処(日本の厚生労働省に相当)は、「犬の虫下し薬ががん治療に効果があるという説にはまったく根拠がない。人を対象に効果・効能を評価する臨床試験が行われていない。動物の腫瘍が促進されたという動物実験もある」と注意喚起を呼びかけた。また、韓国医師会も「抗がん剤と併用すると、抗がん剤の効果を低下させたり、予期せぬ副作用が発生する」と「フェンベンダゾール」を利用しないよう発表した。
しかし、今でも虫下し薬の効果を疑わないがん患者は増え続けている。虫下し薬服用記録をアップし話題となっていた韓国人ユーチューバーのアン・ピンゴは、先月直腸がんのためこの世を去った。彼は今年4月にステージ4を宣告された後、病院での抗がん治療を拒否し、自宅での独自の治療法を行ってきた。7月からその様子をYouTubeにアップし続け、ちょうど噂が流れ始めた9月頃から犬用虫下し薬の服用を開始していた。
噂の発信元であるジョー・ティッペンズのがんは本当に犬用の虫下し薬で消滅したのか? いまだ真相はわかってはいない。しかし、実際に余命3カ月のがん患者だった彼が、今現在元気になって生活しているということは事実である。新薬だったにしろ、虫下し薬だったにしろ、はたまた、それ以外の何らかの効果だったにしろ、一人でも多くの人を救うためにもその理由が明らかになることに期待したい。
医療科学の進歩が進み、がんを克服する人は増えているとは言われているが、今でも死亡率は高く、長期にわたってがんと戦っている人も多い。がんに限らず病気になった患者たちはわらをもすがる気持ちで、効果があったと言われるさまざまな治療や、ときには噂レベルの民間療法を試している。犬の虫下し薬ががんに効いたとユーチューブに動画がアップされただけで、ここまで大騒ぎになるのもその為だ。それは、彼らにはもしかしたら想像もできない何かが病気を消滅させてくれるかもしれないという「心のよりどころ」が必要だからで、それが明日を生きる希望に繋がっている。
だからこそ、今回の虫下し薬については、もしがんを治す効果がなかったと証明されたときに、信じた患者たちがどれほど落胆するかを考えたうえで発表する必要があったのではないだろうか?
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