最新記事

顔認証の最前線

フェイスブックの顔認証システムが信用できない理由

HOW WILL FACEBOOK USE ITS FACIAL DATA?

2019年9月13日(金)11時10分
エイプリル・グレーザー

ザッカーバーグの言葉の意味

たとえ現時点では利用方法に文句がないとしても、民間企業による顔認証にも行政によるものと同じくらい厳しい目を向けるべきだろう。そして、フェイスブックは問題を引き起こしかねないほど大量のデータを持っている。

商業目的での顔認証技術の利用は既に始まっている。例えばスポーツの競技場では、ターゲット広告の改善のために試合中の観客の反応を読み取っている。万引き犯を見つけ出したい小売業者向けにも売り込みが行われている。ニューヨーク・タイムズ紙は昨年、ヘンリー英王子の結婚式の参列者を割り出すためにレコグニションを利用した。

だが現在のところ、フェイスブックはディープフェイスをタグ付け以外には使っていない。理由の1つは、プライバシー設定における決まりの枠を超えた利用をする場合には、まず各ユーザーから「明示された同意」を得なければならないという米連邦取引委員会(FTC)との合意に縛られているからだろう(もっとも、この合意の期限はあと12年だ)。

フェイスブックが大量の顔認証データをどう使うかを考えるに当たっては、これまでの同社の行動を参考にすべきだと、フェイスブックに関する著書があるバージニア大学のシバ・バイディアナサン教授は語る。「フェイスブックは『ネット上の本人確認』という市場をわが物にしようとしたのと同様に、生活のさまざまな場面でも(サービス利用者の)本人確認をする能力を獲得したいと考えている」

ニュース記事にコメントしたり、美容院のネット予約サービスにログインする際、フェイスブックやグーグルのアカウントを利用することもあるだろう。フェイスブックにとってこうしたサービスを提供することの見返りは「人々の好みや傾向を、個人または集団レベルで幅広く把握できる力を手に入れられることだ。ターゲット広告だけでなく、特定の層を狙ったサービスの開発にも役に立つ」と、バイディアナサンは言う。

フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOは「フェイスブックはあなたの個人データを売ったりしない」とよく口にする。広告業者がフェイスブックから特定の個人の情報を買うことはできないという意味において、それは真実だ。

【関連記事】AI監視国家・中国の語られざる側面:いつから、何の目的で?

いつ大噴火するか分からない

だが、データに基づいて特定の特徴を持つ人々を選んで広告を打つための手段は売っている。事業分野を拡大しようとするなかで、航空会社やクレジットカードの処理会社、小売店に向けて、顔認証による本人確認サービスを売り込むかもしれない。

ユーザーの嗜好や傾向に関するデータを基に商売をする場合、フェイスブックはコメントや「いいね」の履歴をそのまま渡すのではない。同様に、他の企業が顔認証のデータベースに直接アクセスすることはないというのが同社の立場だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中