最新記事

世界を変えるブロックチェーン起業

損害は年5000億ドル ブロックチェーンとIoTでサプライチェーンを変えるインド企業

BLOCKCHAIN IMPACT AWARDS 2019

2019年4月19日(金)20時45分
アラナ・ゴンバート

DENISHIPUNOV/ISTOCKPHOTO

<追跡して記録し、問題解決に役立てる――。「Newsweekブロックチェーン大賞2019」受賞スタトウィグ社>

20190423cover-200.jpg

※4月23日号(4月16日発売)は「世界を変えるブロックチェーン起業」特集。難民用デジタルID、分散型送電網、物流管理、医療情報シェア......「分散型台帳」というテクノロジーを使い、世界を救おうとする各国の社会起業家たち。本誌が世界の専門家と選んだ「ブロックチェーン大賞」(Blockchain Impact Awards 2019)受賞の新興企業7社も誌面で紹介する。

◇ ◇ ◇

世界中で生産される食品の約3分の1は輸送中のトラブル(破損や腐敗など)で失われている。その損害額は、全世界で年間およそ5000億ドルと推定される。

いったいサプライチェーンのどこで、どのようなトラブルが起きているのか。それを追跡して記録すれば問題の解決に役立つのではないか。そう考えたシド・チャクラバーティーはシリコンバレーでのキャリアを捨ててインドに戻り、スタトウィグを起業した。ブロックチェーンとIoT(モノのインターネット)を組み合わせて輸送中の物資を正確に追跡する会社だ。

「商品は私たちの手元に届くまでに何千キロもの距離を移動し、大勢の人の手を経ている」と彼は言う。しかし「輸送データは業者ごとに管理されていて、情報を共有しにくい」。

同社は輸送中の物資をIoTで追跡し、そのデータをブロックチェーンに保存する。トラック運転手が冷蔵庫の温度設定を誤ったなどのミスをほぼリアルタイムで把握し、誰も改変できない形で記録している。

同社はワクチン搬送の効率改善にも協力している。製造されたワクチンの半数以上は、患者に届く前にダメになっている。輸送業者がきちんと温度管理を行っているケースは全体の3分の1にも満たないからだ。

しかしブロックチェーンで輸送プロセスを記録すれば「効率改善と問題への即時対応、データの改変防止」が可能になるとチャクラバーティーは言う。

信頼できる記録があれば、銀行や保険会社は速やかにリスクを分析できるし、必要に応じて小さな企業に資金を融通することもできるだろう。そうすれば、多少の損失はいとわない大企業よりも、良心的な小企業が優位に立てるはずだ。ちなみにユニセフ(国連児童基金)は昨年、こうした可能性とワクチン供給の効率改善の意義を認め、同社に資金を提供している。

スタトウィグはまた、インドにおける海産物輸送ルートの追跡にも取り組んでいる。気温の高いインドでは、輸送中の食品ロスは深刻な問題だ。

同社のプロジェクトの多くはまだ実験的な段階にあるが、国際社会からの注目度は高い。成功すれば、世界を変える力を秘めているからだ。

社名:スタトウィグ
分野:サプライチェーン・マネジメント
本社:インド
設立:2017年

<2019年4月23日号掲載>

【関連記事】Newsweekブロックチェーン大賞:医薬品サプライチェーンを変えるクロニクルド

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中