人にも、牛にも、環境にもやさしい酪農業へ カネカが取り組む「有機循環型酪農」とは
北海道野付郡別海町にある「別海ウェルネスファーム」
<後継者不足や飼料価格の高騰など、厳しい状況に置かれている日本の酪農業。カネカは「有機循環型酪農」を実践することで、生乳の付加価値を向上させ、持続可能で魅力ある酪農を広げていこうとしている>
世界を変えるには、ニュースになるような大規模なプロジェクトや商品だけでは不十分。日本企業のたとえ小さなSDGsであっても、それが広く伝われば、共感を生み、新たなアイデアにつながり、社会課題の解決に近づいていく──。この考えに基づいてニューズウィーク日本版は昨年に「SDGsアワード」を立ち上げ、今年で2年目を迎えました。その一環として、日本企業によるSDGsの取り組みを積極的に情報発信していきます。
日本の酪農業は厳しい状況に置かれている。飼料・燃料価格の高騰、労働力不足、後継者不足。多くの課題に経営を圧迫され、酪農家数は1981年からの40年間でおよそ9割も減少した。
農林水産省の食料需給表(令和4年度確定値)によれば、「牛乳および乳製品」の純食料(野菜の芯や魚の頭部などの、不可食部を含まない食料品の重量)は約1174万トン。これは米や麦などの「穀類(約1052万トン)」や「野菜(約1097万トン)」よりも多い。実は私たちは酪農由来の食料品を最も多く食べているのだ。そんな日本の食の基盤が今、揺らいでいる。
人・牛・環境にやさしい酪農を実現するために
酪農業への貢献に手を挙げたのは、意外にも大手総合化学メーカーのカネカだった。
住宅・自動車・電子機器における素材をはじめ、医療機器や医薬品原料など幅広い事業を展開している同社は2018年に乳製品事業に参入し、21年には北海道東部の別海町に有機専用牧場「別海ウェルネスファーム」を開設。22年には有機JAS認証を取得し、23年から有機乳製品第一号となる「ピュアナチュール™ オーガニックヨーグルト」の販売を開始している。
カネカの取り組みの要となっているのが「有機循環型酪農」の実践だ。
放牧やフリーストール飼育によって、乳牛は牧草地や牛舎内を自由に歩き回ることができ、ストレスの少ない環境で育てられる。また自動搾乳機では、乳牛に装着したICチップにより健康データの詳細を取得し、搾乳過多を防ぐことや体調不良を早期に発見することが可能になった。現場作業の省力化と乳牛の健康管理を両立している。
さらに乳牛の排泄物は堆肥として再利用。牧草の有機飼料栽培に役立てるなど、資源を循環させるシステムを確立している。
カネカが実現しようとしているのは、人・乳牛・環境のすべてにやさしく、魅力的な酪農だ。