最新記事
海外ノンフィクションの世界

NYタイムズスクエアはなぜ歩行者天国に変わったか...注目のまちづくり手法「タクティカル・アーバニズム」

2023年12月15日(金)18時15分
大野千鶴 ※編集・企画:トランネット

タクシーに搭載されたGPSでデータを収集した結果、ミッドタウンの交通改善が実証された。数年間でタイムズスクエアは、歩行者数の増加、交通外傷の減少、移動時間の改善が見られ、地価上昇で世界有数の商業地になった。5年間の手直しと計測を経て仮設から常設に至り、本当のスクエア(広場)になった。ブロードウェイの5街区で仮設の公共広場がつくられ、常設に移行。この事例でも市民参加が果たす役割は大きい。

なお、本書にはデザイン思考に基づいたハウツーマニュアルも含まれている。誰のためか、対象地はどこで、原因は何か。解決方法、迅速かつ安価に実施する方法を考え、テストする。必ずデータを取って学習し、次につなげていくことが大切だ。

タクティカル・アーバニズム・ガイド

写真はカリフォルニア州ロサンゼルス郡のインターチェンジ。多くの都市高速道路は建設時に機能的だった近隣地区を貫通した。現代では市民参加の都市デザインが求められている(『タクティカル・アーバニズム・ガイド』p.136より) Public Domain. Accessed with Wikimedia Commons

日本でも善意で無許可のゲリラ的な試みが行政を動かした

2022年6月、名古屋駅前の超一等地の歩道脇に野菜畑が出現した。ある高齢男性が、2年前から無許可で野菜を栽培していたのだ。

その理由は「ゴミが多くて草が生えていたから」。そして「通行人の癒しになれば」と考えたという(収穫目的ではない)。楽しい歩道空間をつくりたい市長は容認する姿勢を示したが、市は道路法に違反するとして野菜は撤去された。

なんと1年後の夏、野菜畑は驚きの復活を見せた。市長の提案で市による公式栽培が実現したのだ。今後も愛知の伝統野菜が栽培されるという。

公共の利益を考えた善意で無許可のゲリラ的な試みが行政を動かしたという点で、この騒動はまさにタクティカル・アーバニズムと言えるだろう。よりよいまちづくりのために行動を起こしたいなら、老若男女も専門分野も国も問わない。いかにして成功に結び付けるか――ヒントになるのがこの本だ。

タクティカル・アーバニズム・ガイドタクティカル・アーバニズム・ガイド

開発のアプローチは「仮設から常設へ」。マンハッタンのある一角では、常設のインフラが整備される前、パブリックスペースと拡張された自転車レーンが仮設の材料を使ってつくられた(『タクティカル・アーバニズム・ガイド』p.264より) Photo: Mike Lydon

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

SBG、投資先のAI活用で「シナジー効果」も=ビジ

ワールド

米国務副長官、イスラエルの「完全勝利」達成を疑問視

ビジネス

武田薬、認知症治療薬候補でライセンス契約 最大21

ワールド

トランプ氏が不倫口止め料支払いを個人的に指示、元顧
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 5

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 8

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 9

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 10

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中