最新記事

キャリア

海外進出企業の失敗例の背景にある英語力不足

2019年1月22日(火)18時30分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

ある外資系グローバル企業の幹部によると、ダイバーシティとはよくいわれるけれど、女性よりも外国人活用の方が経営へのインパクトは大きいとのこと。まさに外国人のいない同質性の高い経営幹部会議ではインパクトが弱く、新たな戦略も出にくいのです。そもそも、グローバル企業の役員が日本人男性だけで占められるのは異常であるという感覚も必要です。

◇ ◇ ◇

死屍累々――巨大なビジネス損失につながるお寒い症候群

海外の優秀な人材が日本に来ない点についてはすでに指摘しましたが、日本企業の海外事業、グローバル事業についての悲惨な現状についてもお伝えしなくてはなりません。

ビジネスの成功例は大きく取り上げられますが、失敗例は倒産につながるような大赤字か不祥事でもない限り、マスメディアでは大きく取り上げられません。海外事業から撤退したなどが報じられる程度です。

しかし、海外事業の失敗の事情をよく検証してみると、広い意味でのコミュニケーション不足、コミュニケーションがとれる人材不足が大きな要因になっている例が多数あります。

以下の例は、私が直接関与した、または見聞した「症候群」です。どの会社であるかわからないように一部脚色していますが、根幹となる問題点は変更していません。

「英語できなくても駐在」症候群

まずは英語をないがしろにしている事例です。「英語はあまりできなかったが、業務に支障はなかった」という海外赴任者の声は意外に多くあります。もし、このような話を聞いて、海外赴任の場合はそこまで英語力を強化しなくてもいいと判断するのであれば早計であり、ビジネスの前途は多難です。

とりあえず、本当は英語ができるのに「あまりできない」と謙虚に言うケースは除きます。

では、なぜ英語ができなくてもなんとかなったのでしょうか。私は、以下のように解釈するべきだと思います。

第一に、海外赴任してもほとんど日本人と付き合っていた場合です。海外赴任をすると、外国での生活の不馴れや語学問題などのため、日本人社会にどっぷり浸かることは一般的です。日本の資本が入っていない完全な現地企業やグローバル企業での勤務の場合、または現地の人と結婚している場合などを除き、日本企業の現地法人に転勤した場合は日本語での会話が多くなりがちです。

中国、台湾、韓国はやや例外ですが、どんな国でも日本語ができる人材は非常に限られています。仮に話せても、実際の勤務にまったく支障のないレベルとなるとぐっと少なくなります。となると当然、大多数の現地の人々との交流はできません。

世界のほんの一部に過ぎない日本人社会での付き合いだけでは、海外赴任でもっとも大切な要素である、現地の人々が何を考えてどんな生活をしているかということがわかりません。

第二に、現地での立場が購買担当である、または親会社の意向があるなど立場が強い場合です。たとえば購買担当なら、数字やコアとなる品質についての英語がわかれば大きな支障がなく、拙い英語であっても相手が「お客様」と思い、英語を理解しようとしてくれるでしょう。親会社の意向が強い場合も、英語ができなくてもなんとかやり過ごすことができます。

第三に、これはそもそも論ですが、英語や現地語ができたらさらにパフォーマンスが上がった可能性があるということです。「英語ができなくてもなんとかなった」というのは実は目標値が低すぎただけで、その低い目標を達成したに過ぎない場合もあります。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アメリカン航空、今年の業績見通しを撤回 関税などで

ビジネス

日産の前期、最大の最終赤字7500億円で無配転落 

ビジネス

FRBの独立性強化に期待=共和党の下院作業部会トッ

ビジネス

現代自、関税対策チーム設置 メキシコ生産の一部を米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中