無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイちゃん』...予想外の大ヒットはなぜ?【ネタばれ注意】
Tale of an Obsession
ドニーは必ずしも好感が持てる人物ではない。身の毛もよだつような状況の犠牲者であるにもかかわらず、彼の自滅的な決断に、これ以上は共感できないと思う視聴者もいるだろう。
しかし、最後まで見た私の心に残っているのは、マーサの描き方だ。
愛くるしいベビーフェイスのイギリス人女優ジェシカ・ガニングはこの役にぴったりで、ドニーがすぐにマーサの恐ろしさを見抜けなかったのも無理はないと思えてくる。
他人の体のファスナーを開けて中に自分をしまいたくなる、つなぎみたいにあなたを着たい──そんなことを言われているのに。
もっとも、ドラマとしてストーカーを単に異常な悪役として描くのは簡単だ。しかし、『私のトナカイちゃん』は違う。
マーサの行動はぞっとさせられることも多く、本当に許し難くなるときもある。例えば、ドニーのガールフレンドを襲って髪を引き抜き、彼女が外国人だと決め付けて人種差別的な暴言を吐く。
ドニーは次第に、マーサがそんなふうに振る舞う理由に興味を持ち始める。嫌がらせが自分の両親に向かい、ようやく警察に相談するが、脅迫の証拠が必要だと言われ、マーサからの何千件という異常な留守電メッセージを確認しなければならなくなる。
それでもマーサが自分と両親に肉体的な危害を加えると脅した証拠を見つけ、被害届を出し、裁判でマーサは有罪判決を受ける。ところが、ドニーは留守電メッセージを聞くのをやめようとしない。彼女の本当の気持ちを知りたくなったのだ。
全てはあの1杯から...
クライマックスに向けて、ドニーは精神的に追い詰められていく。かつて自分を虐待した性加害者を訪ねて共演することに同意し、パニックの発作を辛うじて抑え、通りがかったパブに入る。
そして、まだ聞いていなかった留守電メッセージの1つを再生したとき、ある疑問の答えをついに知る──マーサはなぜ、自分を「私のトナカイちゃん」と呼び続けたのか。