大坂なおみが語る「だから私は心の問題を訴えた」
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警察の人種差別的な暴力に抗議し、4大大会で会見を拒否するなど、大坂はプレー以外の行動でも話題をさらった KELLY DEFINA/GETTY IMAGES
<3年前に記者会見拒否を宣言したテニスの元女王が、そこに至った大きすぎる苦悩と葛藤を振り返り、自身の言葉で思いを語った>
テニスの4大大会を4度制し、最も高収入の女性アスリートにもなった大坂なおみは、人種をめぐる正義とメンタルヘルスの両方に絡むスターとして大きな注目を浴びた。
2020年の全米オープン。直前にウィスコンシン州ケノーシャで黒人男性が警官に撃たれて下半身麻痺になった事件があった。
これを受けて、大坂は警察の人種差別的な暴力の被害に遭った黒人の名前を入れたマスクを着け(名前は試合ごとに替わった)、話題を呼んだ。
そして大坂は優勝した。
21年の全仏オープンの前にはメンタルヘルスを理由に、大会中は記者会見を行わないと宣言。
主催者側が厳しい罰金と失格の可能性を含む処分を科すと通達したため、大坂は1回戦に勝った後に大会を棄権した。
その大坂が今年1月、コートに帰ってきた。
22年9月以来の休養と娘の出産を経て26歳になった彼女は「またテニスに戻れるのは最高」と語っている。
ジャーナリストのベン・ローゼンバーグは新著『大坂なおみ──パワーと声を探す旅』(ダットン社刊)で、大坂が直面した苦難と葛藤を描いた。
一人の女性がいかにしてメンタルヘルスの問題をテニス界に、そして世界に注目させたのか。以下に紹介する同書の抜粋は、その舞台裏をつづっている。
大坂なおみは、2021年の全仏オープンで最も話題になる選手ではなかったはずだ。
それに先立つ2つの4大大会で優勝していたが(20年全米オープンと21年全豪オープン)、彼女がクレーコートを苦手としていると知り、直近の敗戦を目撃した専門家らは、大会前に彼女に大きくスポットを当てなかった。
なおみはこの年の全仏オープンで世界ランキング1位に返り咲く可能性もあったが、直近の調子を考えれば、その点に触れる声はほとんど聞かれなかった。
オッズメーカーも同様に、彼女が全仏オープンに優勝する可能性を5番手程度とみていた。
前評判でトップのアシュリー・バーティは19年に全仏に優勝して以来、初めてこの大会に戻ってきた。
前回王者のイガ・シフィオンテクは、直前に開かれたイタリア国際決勝でカロリナ・プリスコバに6-0、6-0のスコアで圧勝していた。
夜11時24分、全てが変わった
これまでなら、なおみの大会開幕前のSNS投稿は、紫色に輝く全仏オープン仕様のナイキのシューズを見せびらかしたり、センターコートでカメラに向かってジャンプして笑ったりする写真が定番だった。