最新記事
エンタメ

『イカゲーム』が素人参加型バラエティーに...悪趣味で軽薄だが、見事に視聴者ニーズをつかんだ仕上がり

The Money’s in Reality TV

2023年12月16日(土)15時06分
ルーク・ウィンキー

231219P56_IKG_02v2.jpg

賞金獲得を目指す『イカゲーム:ザ・チャレンジ』の参加者たち COURTESY OF NETFLIX

それに対し、『チャレンジ』は真の狙いを全く隠そうとしない。これは、憎悪に満ちた視聴者に向けた憎悪に満ちた番組だ。巨額の賞金を目当てに参加した人たちの圧倒的大多数は、徹底して侮辱的な扱いを受ける。

あるエピソードでは、参加者たちは、割れやすいカルメ焼きの「型抜き」ゲームを課される。円形や三角形や星形や傘の形など、指定された形に型を抜くのだ。1人の参加者は極度のストレスで体調を壊し、うっかりカルメ焼きを割ってしまう。

すると次の瞬間に、その参加者は「射殺」される。本当に殺されるわけではなく、胸の血のりが破裂するのだが、その人物はほかの参加者が型抜きの作業を続ける間、死んだふりをしてその場に倒れているよう指示されている。

『チャレンジ』は、視聴者の「他人の不幸は蜜の味」という感情に訴えかける。オリジナルのドラマの設定だけを利用して、ひたすら他人を見下す感情をかき立てるのだ。

命懸けの脱出ゲームに参加する人たちは、どうして巨額の賞金を欲しがり、そのためにほかの参加者たちの裏をかこうとするのか──。オリジナルのドラマのようにこの点を掘り下げなければ、視聴者の本能的衝動を満足させるための見せ物にしかならない。

こうした作品が出来上がったことは意外でない。エンターテインメント業界では、成功したコンテンツは全て、利用できるだけ利用されるのが当たり前になっている。そのとき真っ先に犠牲になるのは、オリジナル作品の微妙なニュアンスや一貫性だ。

『007』も商魂の犠牲に

アマゾンプライム・ビデオの新作『007 クイズ!100万ポンドへの道』も同様のパターンと言える。

アマゾンが2021年に映画製作大手MGMを買収した大きな理由の1つは、主人公ジェームズ・ボンドでおなじみの『007』シリーズの権利を獲得することにあった。そして、同社がその権利を活用して最初に送り出したのは、新作映画ではなく、もっと低コストで制作できるコンテンツだった。そう、リアリティー番組である。

『100万ポンドへの道』では、9組のコンビが賞金を手にするために世界を駆け回って冒険に臨む。「ザ・コントローラー」と呼ばれる陳腐な悪役の親玉(俳優のブライアン・コックス)が薄暗い部屋に陣取って参加者の奮闘ぶりを見守り、参加者がプレッシャーに負けて失敗すると満足げな態度を見せる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン外務次官、核開発計画巡る交渉でロシアと協議 

ビジネス

トランプ関税で実効税率17%に、製造業「広範に混乱

ワールド

米大統領補佐官のチーム、「シグナル」にグループチャ

ワールド

25%自動車関税、3日発効 部品は5月3日までに発
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中