AI乱用への警鐘?...気持ち悪すぎて「見るに堪えない」ビートルズ「最後の新曲」のミュージックビデオの罪
Would John Have Approved?
故人のレノンとハリスンもビデオに登場 THE BEATLES/YOUTUBEーSLATE
<これではビートルズへの冒瀆。技術の進化に乗じて、今は亡きジョンとジョージを引っ張り出した監督の罪深さについて>
ジョン・レノンが踊っている。ビートルズのほかのメンバーが楽器を弾き歌う横で、お調子者のレノンはご機嫌な様子で跳ねるように踊る。
だが何かがおかしい。両手をイルカのひれみたいにパタパタさせ、妙な角度に曲げたかと思うと、窓でも拭くように宙で円を描く。体と頭の動きも微妙にずれる。手拍子のリズムが取れない聴衆のように、乗りが不自然だ。
これは「ビートルズ最後の新曲」と銘打って発表された「ナウ・アンド・ゼン」のミュージックビデオの一場面。ビデオは追憶の旅として幕を開け、存命のポール・マッカートニーとリンゴ・スターの映像を、今は亡きレノンとジョージ・ハリスンの昔の映像と交互に見せる。
しかし監督のピーター・ジャクソンは歳月をさかのぼるだけでは飽き足らず、消してしまいたかったらしい。
80代のマッカートニーとスターを『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』時代のレノン、ハリスンと共演させ、白髪のマッカートニーの横に亡霊のようなハリスンを立たせた。
ジャクソンが2021年のドキュメンタリー『ザ・ビートルズ:Get Back』の制作中に新技術を開発しなければ、新曲は誕生しなかっただろう。45年前の音源からレノンの声を分離できたのは、このAI(人工知能)技術のおかげだ。だが完成した曲はビートルズ風味のしぼりかすのようで、冴えない。
さらに、ビデオは別次元でたちが悪い。ジャクソンはレノンとハリスンを引っ張り出し、共犯者に仕立てて有無を言わさず協力させた。もはや追悼というより墓荒らしだ。
ジャクソンが約10年前に完結させた『ホビット』3部作は、文字どおり見るに堪えない映画だった。HFR(ハイフレームレート)3Dの採用が裏目に出たのだ。
故人は拒否できないのに
通常の倍の1秒48コマで撮影し映写するデジタル技術HFR3Dを彼が使ったのは、ファンタジーにリアルな感触を加えるためだった。ところがその映像は鮮明すぎて、観客は映画を見ているのではなく撮影現場に放り込まれた気がした。
その前の『ロード・オブ・ザ・リング』3部作では、特定の俳優を共演者より大きく見せる強制遠近法のような昔ながらの映画のマジックが、デジタル特殊効果とうまく同居していた。
しかし、それ以降のジャクソンは映画の出来を度外視し、最新テクノロジーを試すための方便として映画を利用している感がある。