相次ぐ環境活動家による名画襲撃 温暖化啓蒙より美術品保険のインフレもたらす
保険料が来年から急上昇
世界の美術品保険市場の保険料収入は約7億5000万ドル。保険料率は2020年と21年に約5%上がった。今年は横ばいだが、保険会社は上昇を予想する。
気候変動への抗議行動とは関係なく、地球温暖化に関連した火災や洪水の発生が増え、来年の保険料は高くなりそうだという。
インフレも保険料上昇に追い打ちをかけている。
アクサで美術品の引き受け部門を統括するジェニファー・シプフ氏は、保険会社のリスクを保証する再保険会社が来年1月1日の契約更新時に保険料率を引き上げ、美術品市場にも影響が及ぶ可能性があると指摘した。
保険会社やブローカーによると、これまでのところ美術品攻撃による保険金の請求は発生していない。レオポルド美術館の保険契約の詳細は不明だが、ナショナル・ギャラリーの永久収蔵品のリスクは英国政府が負担していると広報担当者が説明した。
主要な美術館は損害が発生した場合、商業的な保険で保険金を請求せず、資金的な保証を政府に依存する場合が多い。
だが、商業ベースで運営する美術館や画廊は美術品保険に加入しており、米国の大規模美術館は欧州よりも保険の利用が一般的だ。
近年はテロや襲撃に対する懸念から、作品がガラス張りになり、警備員や手荷物検査が強化されたこともあって、保険料は安定的に推移していた。
一部の保険会社も警戒を強めており、ある保険会社はガラス張りの作品しか保険を受けないと明かした。
ロイターの取材に応じた保険会社5社は、気候変動による影響をまだ保険料に織り込んでいないと回答した。しかし、既にコスト増に直面しているという作家もいる。
ドイツの芸術家、ANTOINETTEの代理人を務めるトーマス・ハンペル氏によると、ANTOINETTE氏の作品をカバーする保険料の上昇率はこの3年間は3─5%に収まっていたが、来年は12.5%に急上昇する。
また、大きな作品を安全に展示するための追加費用は、輸送や組み立てに加え、100平方メートルの反射防止ガラスの設置など3万5000ユーロ(3万6417ドル)にも達する。ハンペル氏は「こんな追加コストは払えない」と話した。
(Carolyn Cohn記者、Noor Zainab Hussain記者、Barbara Lewis記者)