性的少数者の苦しみより、喜びを描く『エニシング・イズ・ポッシブル』の爽やかな新しさ
“We Choose Joy”
性的少数者の「喜び」に意図的に焦点を当てたと、ポーターは言う COREY NICKOLS/GETTY IMAGES FOR IMDB
<ビリー・ポーターの初監督作品は、トランスジェンダーの日常がテーマ。古き青春映画の精神を現代的なキャストで描いた注目作をポーター監督自身が語った>
アメリカの青春コメディー映画の原型を作った監督と言えば、ジョン・ヒューズ。だが彼の作品は、人種や性の多様性に欠けていた。
そこで、ビリー・ポーターの出番だ。ポーターの初監督映画『エニシング・イズ・ポッシブル』(アマゾン・プライムビデオで配信中)は、10代のトランスジェンダーが主人公。「(ヒューズの映画には)僕みたいな人は登場しなかったから、白人の典型に自分を合わせるしかなかった」と、ポーターは言う。
この作品は、トランスジェンダーの高校生ケルサ(エバ・レイン)の日常と恋を描く。年齢を超えた成熟さを表現できるレインは適役だったと、ポーターは言う。
「レインは黒人のトランスジェンダーの女の子で、17歳になる前にカミングアウトした。『性的多数派』の女性にはない大人の部分がある」
ポーターは、エミー賞主演男優賞を受賞したドラマ『POSE/ポーズ』に続くプロジェクトの1つが「喜び」に焦点を当てた作品になったことがうれしいと言う。「『POSE』はトラウマについての作品だったけど、『エニシング・イズ・ポッシブル』は混じり気のない喜びの作品」と語るポーターに、本誌H・アラン・スコットが聞いた。
――監督は以前からやりたかった?
うん。20代の頃、自分が本当にやりたい仕事は、手が届かない所にあると思い知らされた。だから、自分が世に出したい作品を作るには、自分で製作し、自分で指揮を執るしかないと思っていた。
――性的少数者の物語にはトラウマが付き物だが、この作品はそうではない。意図的に喜びに焦点を当てた?
もちろん。脚本を読んだとき、「ワオ! トランスジェンダーの喜びを描いた物語がついに登場した」と思った。
――ジョン・ヒューズの青春映画は、この作品にどんな影響を与えただろう?
けなすつもりはないけれど、時代が違うから......。今度の作品でやりたかったのは、ヒューズ的な青春映画の喜びを抽出すること。その精神を受け継いだ映画を、今の世界を反映したキャストで作ることができて、とてもハッピーだ。
――『POSE』は、現代のショービズ界における非白人の性的少数者の存在をどう変えたと思う?
ものすごく変えた。それまで存在しなかった空間が生まれ、会話が聞かれるようになった。私がここにいるのは、(『POSE』の制作総指揮の)ライアン・マーフィーのおかげだよ。