やはりスピルバーグは素晴らしい! リメイク版『ウエスト・サイド』の絶妙さ
West Side Story Today
ロビンズは61年の元祖映画版でも、ワイズと並んで共同監督を務めている。ワイズは既にハリウッドのベテランで、人種差別や暴力などのテーマも扱える監督として知られていた。
それでもプエルトリコ人の役の大半には白人が起用されていた(みんな顔を濃い色に塗っていた)。そのことを問題視するメディアもなかった。元祖映画版WSSはアカデミー賞で作品賞を含む10冠を達成し、批評家筋からも高い評価を得ている。
WSSは2009年にブロードウェイで再演された。このときは中南米系の移民を描いたミュージカル『イン・ザ・ハイツ』でトニー賞を受賞したリン・マヌエル・ミランダを招き、一部の歌詞をスペイン語にした。
いつかはWSSのリメークを、と考えていたスピルバーグが、脚本家のクシュナーにアプローチしたのは14年のことだ。引き受けたクシュナーは、60年の歳月を越えて観客の心に響くストーリーを練るのに腐心したという。
こうして生まれたリメーク版は、新しさと同時に懐かしさも兼ね備えている。バーンスタインの楽曲(デビッド・ニューマン編曲、グスターボ・ドゥダメル指揮、ニューヨーク・フィル演奏)は、かつてないほどダイナミックだ。
ジャスティン・ペックの新たな振り付けは、ロビンズのバレエ的なスタイルを残しつつ、スクリーンからはみ出すほどにエネルギッシュだ。
悲恋に深みを与える設定の変更
そして何よりもスピルバーグが素晴らしい。ミュージカルに挑戦するのはこれが初めてだが、昨年末(12月18日)で75歳になった巨匠は時代と社会の要請にしっかり応えているし、ミュージカルの映画化で最も困難な技術的課題も克服した。開放的な舞台をカメラで切り取り、スクリーンの枠に押し込めているのに、全く閉塞感がない。
脚本のクシュナーも、とかくセンチメンタルになりがちな悲恋の物語に深みを与える工夫をした。白人側の主人公トニーに、かつて敵対する組織の一員を殴った罪で1年間服役した過去を持たせ、出所してからは不良グループと距離を置いているという設定に変更している。
もう1人の主役、プエルトリコ出身の少女マリアを演じたのは新人レイチェル・ゼグラー。公開オーディションで何万もの応募者から抜擢されたときは、まだ16歳のユーチューバーだった。
元祖映画版でマリアを演じたナタリー・ウッド(当時23歳)に比べると、いかにも純情な10代の少女らしく、それでいて意志の強さも感じさせる。
対照的に、アンセル・エルゴート演じるトニーは少し鈍く見えるが、これはまあ、シェークスピア以来の伝統。ジュリエットはいつだってロミオより賢いのだ。
作中でプエルトリコ人を演じる役者がスペイン語で話す場面でも、たいてい英語の字幕は付かない。アメリカの観客の何割かはスペイン語の母語話者だし、スピルバーグにはアメリカに単一の「国語」は存在しないとアピールしたい気持ちもあっただろう。