最新記事

韓国ドラマ

イカゲームは既成概念を超えようとして、逆に「時代遅れ」の価値観に溺れた

MIRED IN A FAMILY GAME

2021年12月24日(金)17時48分
ハンナ・ユン

サンウはアリに土下座して、「私がここで(ゲームに負けて)死ねば、家族も全員死ぬことになる」と命乞いをするが、アリは「自分にも家族がいるから死ねない」と謝る。

ジヨンは両親が死んだ経緯を語り、姓を聞かれると、そんなものはないと答える。そして、わざと負けた彼女は、甘い音楽が流れるなかセビョクに言う──あなたにはここを出る理由があるけれど、私にはない。この言葉に重なるように、ビー玉遊びで妻を失った男性が、次のゲームが始まる前に自殺する。

最後のエピソード8と9で、ドラマは設定を完全に見失ったかのようだ。セビョクは第5ゲームで勝ち残った後、飛び散ったガラスの破片で致命的な傷を負い、強くて自立した人間から保護を必要とする若い女性になる。最終戦の「イカゲーム」の直前にプレーヤーはナイフを渡され、生き残るために殺し合うことの倫理性を突き付けられる。

韓国ドラマらしい会話

一方で、韓国ドラマらしく、家族をめぐる義理や責任について長い会話が続く。セビョクは血を流しながらギフンに言う。「約束して......生きて帰れたほうが、お互いの家族の面倒を見る」。非情なサンウも、ギフンに母親を頼むと懇願する。

勝者は、誰よりも生き延びようと必死な者(セビョク)でも、最も賢い者(サンウ)でもない。過去を呼び起こす者、ギフンだ。

エピソード1は小学生が校庭でイカゲームをしている白黒のシーンで始まる。ギフンと思われる少年は、ゲームに勝って「天下を取ったような」幸せな気分になった。

ギフンの一貫した感傷的な態度は、サンウの冷徹だが先のことを考えようとする態度とは対照的だ。ギフンが小学校の教室で金属製の弁当箱を練炭ストーブで温めた思い出を語ると、サンウがぴしゃりと言う。「懐かしんでいる暇があるなら、次のゲームを予想しろ」

命懸けのゲームで最後に恩恵を受けるのは、家族の信頼を象徴する人々、サンウの母親とセビョクの弟だ。息子を無条件に信じるサンウの母親は、警察からサンウの居場所を聞かれても、外国に出張中だ、悪いことをする子ではないと言い張る。彼女はただ、ギフンが自分の母親を大切にすることと、サンウが結婚して幸せに暮らすことを願っている。

『イカゲーム』はエンターテインメント性が高く、表面的な複雑さも備えているが、惜しいことに、全ては家族に行き着くというテーゼの泥沼にはまっていく。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中