イカゲームは既成概念を超えようとして、逆に「時代遅れ」の価値観に溺れた
MIRED IN A FAMILY GAME
サンウはアリに土下座して、「私がここで(ゲームに負けて)死ねば、家族も全員死ぬことになる」と命乞いをするが、アリは「自分にも家族がいるから死ねない」と謝る。
ジヨンは両親が死んだ経緯を語り、姓を聞かれると、そんなものはないと答える。そして、わざと負けた彼女は、甘い音楽が流れるなかセビョクに言う──あなたにはここを出る理由があるけれど、私にはない。この言葉に重なるように、ビー玉遊びで妻を失った男性が、次のゲームが始まる前に自殺する。
最後のエピソード8と9で、ドラマは設定を完全に見失ったかのようだ。セビョクは第5ゲームで勝ち残った後、飛び散ったガラスの破片で致命的な傷を負い、強くて自立した人間から保護を必要とする若い女性になる。最終戦の「イカゲーム」の直前にプレーヤーはナイフを渡され、生き残るために殺し合うことの倫理性を突き付けられる。
韓国ドラマらしい会話
一方で、韓国ドラマらしく、家族をめぐる義理や責任について長い会話が続く。セビョクは血を流しながらギフンに言う。「約束して......生きて帰れたほうが、お互いの家族の面倒を見る」。非情なサンウも、ギフンに母親を頼むと懇願する。
勝者は、誰よりも生き延びようと必死な者(セビョク)でも、最も賢い者(サンウ)でもない。過去を呼び起こす者、ギフンだ。
エピソード1は小学生が校庭でイカゲームをしている白黒のシーンで始まる。ギフンと思われる少年は、ゲームに勝って「天下を取ったような」幸せな気分になった。
ギフンの一貫した感傷的な態度は、サンウの冷徹だが先のことを考えようとする態度とは対照的だ。ギフンが小学校の教室で金属製の弁当箱を練炭ストーブで温めた思い出を語ると、サンウがぴしゃりと言う。「懐かしんでいる暇があるなら、次のゲームを予想しろ」
命懸けのゲームで最後に恩恵を受けるのは、家族の信頼を象徴する人々、サンウの母親とセビョクの弟だ。息子を無条件に信じるサンウの母親は、警察からサンウの居場所を聞かれても、外国に出張中だ、悪いことをする子ではないと言い張る。彼女はただ、ギフンが自分の母親を大切にすることと、サンウが結婚して幸せに暮らすことを願っている。
『イカゲーム』はエンターテインメント性が高く、表面的な複雑さも備えているが、惜しいことに、全ては家族に行き着くというテーゼの泥沼にはまっていく。