最新記事
ドラマ

(ネタバレ注意)グロくて泣ける『イカゲーム』、従来のデスゲームとの違いは?

A Korean Drama That Is Not for the Fainthearted

2021年10月14日(木)18時50分
レベッカ・オニオン

211019P48_IKA_02.jpg

450人超の参加者はあっという間に半分に YOUNGKYU PARK

『イカゲーム』にはもう1つ、ほかの作品と大きく違う点があり、これが見る人の情緒を強く揺さぶる展開を可能にしている。登場人物たちは自分の意思でゲームへの参加を決めなければならないのだ。

第1のゲームで大勢が殺された後、ギフンたちは最初に署名させられた参加同意書の条項に基づき、ゲームの中断を多数決で決める。それぞれ家に帰って短い時を過ごすが、結局はみんな賞金獲得のためにゲームに戻ってくる。

ゲーム参加者たちはいずれも厳しい状況に置かれている。セビョク(チョン・ホヨン)は脱北者で、北朝鮮から家族を呼び寄せるための金を必要としている。アリ(トリパティ・アヌパム)はパキスタン人の不法移民で心優しい父親だが、給料をまともに支払ってもらえない。現実社会でかなわぬ夢を追っても追い詰められていくだけと、みんな死の危険を顧みず巨額の賞金を目指すことを選ぶ。

もっとも参加者は善人ばかりではない。ギャングのドクスはいかにもワルといった感じで、ライバルが減ると思えばほかの参加者を殺すこともいとわない。もう1人の悪役については、あえて正体には触れないでおく。ある参加者に対するこの人物の行いは許し難いもので、視聴者は大いにショックを受けるはずだ。

思わず大泣きさせられた場面

ゲームの場面はスリル満点だ。綱引きで老若男女の混成チームが力で勝る男性のみのチームと戦う場面では、混成チームが一歩一歩後ろに下がっていくたびに思わず声援を送ってしまった(彼らが勝つということは、ほかの人々が奈落に落ちて死ぬことを意味するわけだが......)。

また、自分を虐待していた父親を殺して服役し、出所してきたばかりで金も友人もない女性ジヨンが自らを犠牲にしてセビョクを勝たせた場面では大泣きした。タイトルにもなっているイカゲーム(地面にイカの形に似た図を描いて遊ぶ陣取りゲームの一種)で最後に残った2人が戦う場面は、緊張に耐えられずスマホの画面に目をやりつつ見た。

本作には、人の不幸を面白がって見るという「悪行」について道義的に問う部分がある。そんな作品がネットフリックスで一番人気のヒット作になるというのはちょっと皮肉な気もする。

最終話でギフンが訪れたヘアサロンのテレビからは、韓国の家計債務のGDP比が上昇しているというニュースが流れる。ここから分かるのは、人々の経済的な苦境や、不完全なシステムの中で負け組になってしまった人々が被る影響といった問題も本作の大きなテーマだということだ。

ギフンはゲームの運営側にこう言い放つ。「俺は(競馬の)馬じゃない。人間だ」。彼が背負うさまざまなものがどう生かされるのか、今からシーズン2が待ち遠しい。

©2021 The Slate Group

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米運輸長官、連邦航空局の改革表明 旅客機・ヘリ衝突

ビジネス

基調物価が2%へ上昇するよう、緩和的な金融環境維持

ビジネス

コマツの4ー12月期、営業益2.8%増 建機販売減

ビジネス

安定した物価上昇が必要、それを上回る賃金上昇も必要
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 4
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 5
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 6
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    空港で「もう一人の自分」が目の前を歩いている? …
  • 9
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 10
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 7
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 8
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 9
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 5
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 10
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中