都市伝説の深い闇の中から、あの殺人鬼『キャンディマン』が帰ってきた
A New, Modern-day Candyman
アンソニーは忌まわしい過去への扉を開けてしまう UNIVERSAL PICTURESーSLATE
<恐怖と社会問題を融合させた映画『キャンディマン』を、黒人女性監督が現代版カルトホラーにアップデート>
『キャンディマン』は、右手が鋭利な鉤(かぎ)になった殺人鬼をめぐる都市伝説を題材にした映画。英ホラー作家クライブ・バーカーが、1985年に発表した短編「禁じられた場所」が原案になっている。
92年、最初にバーナード・ローズ監督が映画化したとき、舞台はシカゴの公営住宅カブリーニグリーンに設定された。キャンディマンは黒人俳優のトニー・トッドが演じた。
バーカーの原作では、キャンディマンは名前も人種も特定されておらず、背景も描かれていない。しかし92年の映画では、奴隷の息子の霊という設定。この息子は白人の肖像画を手掛ける画家だったが、雇われた白人家庭の娘を妊娠させたため、リンチに遭って殺され右手を切り落とされた。
人種問題を取り入れたホラー映画は、92年当時は珍しかった。ローズの『キャンディマン』がカルトホラー映画史に重要な地位を占めているのは、それが理由でもある。
だが今、ホラーが社会問題に触れることは普通になった。そこで、黒人女性監督ニア・ダコスタによる新しい『キャンディマン』の出番となる。この映画は92年作品の「精神的な続編」という位置付けだ。
映画は77年のカブリーニグリーンをめぐる謎めいたプロローグの後、現代へ飛ぶ。アーティストのアンソニー(ヤーヤ・アブドゥルマティーン2世)と恋人のブリアンナ(テヨナ・パリス)は、カブリーニグリーンの跡地に立つ高級マンションに暮らす。
ある日、ブリアンナの弟トロイが男性の恋人と一緒に姉たちを訪れ、かつてカブリーニグリーンで起きた悲劇について語る。彼の話はほぼそのまま、92年の映画の粗筋だ。
過去の名作ホラーからの引用も
ダコスタの演出には映画史の引用が目につく。スタンリー・キューブリックが使ったような左右対称の構図が多用され、デービッド・クローネンバーグの『ザ・フライ』を思わせるボディーホラー(身体の極度の変容や破裂する様子を見せる)の場面もある。
そして、鏡の秀逸な使い方だ。都市伝説によればキャンディマンは、誰かが鏡に向かってその名を5回唱えると現れる。アンソニーは時として、鏡の中に自分ではなく、鉤の手をした殺人鬼(今回もトッドが熱演)の姿を見つける。
キャンディマン伝説にとらわれたアンソニーは、カブリーニグリーンの跡地を歩く。そこで出会ったコインランドリー管理人のバーク(コールマン・ドミンゴ)から、都市伝説の裏に隠された悲惨な物語を聞かされる。