熱烈なBTSファンの娘に、親として言いたいこと
CRAZY IN LOVE
娘が熱中するBTS関連グッズの数々 COURTESY DAVID PEACE
<日本在住の作家デイヴィッド・ピースが、娘のBTS愛は「異次元の愛」だと気付かされた理由。娘よ、愛する才能を失うことなかれ──。本誌「BTSが変えた世界」特集より>
アンパンマン、スポンジ・ボブ、『オシャレ魔女♥ラブandベリー』、ジャクリーン・ウィルソンの児童文学、ワン・ダイレクションとメンバーのゼイン・マリク、ノルウェーのドラマ『スカム』、ティモシー・シャラメ、ファイブ・セカンズ・オブ・サマー(5SOS)......。
生まれてから20歳になるまでの私の娘の人生はさまざまな意味で、情熱の対象という章、それも大抵はごく短い数々の章から読み解ける。娘の情熱は激しく燃え、スポンジ・ボブのペンケースやゼイン・マリクのマグ、私のクレジットカード利用明細に記された5SOS日本公式ファンクラブの会費支払いなど、思い出のかけらを残して消えていった。
娘がBTS(防弾少年団)の話をし始めたときは、これまでと同じだろうと思っていた。だがたちまち、これは異次元の愛だと気付かされた。
まず、BTSに夢中になるのは、アルバム発表とツアーを中心とする大半のバンドの場合よりずっと包括的な体験らしい。
娘が足を踏み入れたのは、テレビ番組やオンライン番組、映画や書籍で構成される1つの世界だ。その全てをARMY(アーミー)と呼ばれる世界中の膨大な数のBTSファンが分かち合い、ソーシャルメディアで語り合っている。BTSについて質問すると、娘が「私」ではなく「私たち」と答えがちなことに、私はすぐに気付いた。
さらに、5SOSのファンだった頃、娘は彼らの出身地のシドニーに行きたいとか、カンガルーバーガーを食べたいとは言わなかった。ところが今や、ソウル旅行を計画し、韓国ドラマを観賞し、韓国語を学び、新大久保でサムギョプサルやチャミスルを味わっている。夢は韓国に留学して、韓国語を習得することだ。
もちろん53歳の父親にしてみれば、シニカルに嘲笑するのは簡単だ。いささか警戒し、不安になることさえも。だが、これは本当に奇妙なのか。
私自身の人生もいわば、情熱という章の積み重ねだった。それも大半は妄想交じりのものだ。私は本当にヨークシャーの街中で、鹿撃ち帽姿でパイプをくわえていたのか。ジョイ・ディビジョンやザ・スミスの音楽への情熱が理由で、マンチェスター大学へ進学したのは確かだ。アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンが好きなあまり、ベルリン移住を夢見たこともある。ジェームズ・エルロイのノワール(暗黒)小説への執着は私の最初の作品の源になった。