最新記事

日本社会

日本社会の「生理」観は変わるか? 漫画キャラがタブーに挑戦

2019年12月18日(水)16時35分

赤い唇と赤いパンツが印象的な「生理ちゃん」は、日本の漫画のキャラクターとして生まれ、最近映画化もされた。写真は上映館で映画のポスターを運ぶスタッフ。12月13日、東京で撮影(2019年 ロイター/Issei Kato)

彼女はタイミング悪くやって来て、パンチで鈍痛を与えるーー。

でも、「生理ちゃん」には使命がある。女性の生理は恥ずかしく汚いもので、オープンに話すことではない、とされている社会のタブーを破ることだ。赤い唇と赤いパンツが印象的な生理ちゃんは、日本の漫画のキャラクターとして生まれ、最近映画化もされた。

どちらも見た人からは好評で、男性にも女性にも生理に対する理解を深めるための一歩として評価されている。ただ一部では、ステレオタイプな見方や、その奥にある性差別から目をそらすことにならないか、との懸念を示す向きもある。

大阪大学の牟田和恵教授(社会学)は「これまで全く隠されてきたことを、漫画、コミックにするというのは1つの意味があると思う。生理のことについて女性のリアリティを知らない男性は非常に多い」と話す。「この漫画を100%ほめることはできないが、オープンになり、教育される方向に一歩でも進んで行けばいいと思う」

映画「生理ちゃん」は吉本興業が制作し、11月に公開された。原作は男性漫画家の小山健氏によるコミックで、2017年に連載が始まり、KADOKAWAから単行本化されている。

映画版は今月、台湾で上映開始、1月には香港でも公開される。中国と東南アジアでのプレミアショーも計画されている。

生理についてオープンに話そうという試みが注目を集めたのは、老舗百貨店の大丸が、生理中の従業員に「生理ちゃん」のキャラクターが描かれたバッジの着用を呼びかけたことがきっかけだった。従業員同士の助け合いをうながす目的だったが、ハラスメントを懸念する声などが寄せられ、現在は「再検討中」だという。

漫画版では、生理ちゃんのパンチを受けた女性が生理痛で倒れ、生理ちゃんが注射器で血液を抜き取る場面が描かれる。夫が優しくしないと、生理ちゃんは今度は夫にパンチをお見舞いする。

日本では封建時代、生理中の女性は汚れているとみなされ、離れの部屋に閉じ込められたこともあった。

映画版では、主人公で出版社の編集者・青子の男性上司が生理痛の辛さに理解を示さない様子や、妻と死に別れ娘を1人で育てている青子の恋人が娘の初潮に際し、青子に相談する様子が描かれる。青子はこう嘆く。「1年に1回でいいから男も生理になればいいのに」。

性差問題について発信している作家の北原みのり氏は、タブーを破ろうとする試みは歓迎するとしながらも、漫画と映画は「女性の悩みがステレオタイプ化され、矮小化された物語になっているという感じ」がすると指摘する。

33歳の男性は、彼女と一緒に映画を鑑賞した。「男は女の大変さがわからない。勉強になった。大したことではない人もいるし、立ち上がれない人もいる。(この映画は)わかりやすい」と、映画館から出てきた男性は話した。

「男性に見てほしい」。32歳の彼女はそう語った。

(翻訳:宮崎亜巳、編集:久保信博※)

Linda Sieg

[東京 ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20191224issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月24日号(12月17日発売)は「首脳の成績表」特集。「ガキ大将」トランプは落第? 安倍外交の得点は? プーチン、文在寅、ボリス・ジョンソン、習近平は?――世界の首脳を査定し、その能力と資質から国際情勢を読み解く特集です。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中