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アカデミー賞主演女優が足りない!オスカー候補の男女格差
2012年は男性主演映画の当たり年だったが、女優陣の活躍の場は激減。アカデミー賞でも主演女優候補は「がら空き」状態に
独走中 アカデミー賞の主演女優賞に有力視されるジェニファー・ローレンス Mario Anzuoni-Reuters
毎年、冬の映画賞シーズンが近づくと、各映画会社は売り込みのためにディナーパーティーを開く。しかし今回は少し様子が違う。賞レースの目玉になるようなスター女優がいないのだ。
もともと映画産業は男性中心で、主役も男性ばかりだという批判は昔からあった。とはいえ、12年ほど主演の男女格差が広がった年はないだろう。
興行収入で12年トップの『アベンジャーズ』を見るといい。アメコミヒーローが勢ぞろいするこの作品で、女性ヒーローは1人だけ。この役を演じたスカーレット・ヨハンソンは07年以降、主演映画がない。
アカデミー賞の有力候補を見ても、主演男優賞候補に選びたい俳優は大勢いる。『リンカーン』(日本公開は4月19日)で第16代大統領を演じたダニエル・デイ・ルイス、『THE MASTER』(同3月22日)で第2次大戦の帰還兵に扮したホアキン・フェニックス。デンゼル・ワシントンは『フライト』(同3月1日)で墜落事故の危機を回避したパイロット役を演じて高く評価された。
それだけではない。不気味なほどアルフレッド・ヒッチコック監督になり切った『ヒッチコック』(同13年春)のアンソニー・ホプキンス。『アルゴ』で主演・監督を務めたベン・アフレック。ジョン・ホークスは、初の性体験に挑もうとするポリオ患者を描いた『ザ・セッションズ』で最高の演技を披露した。
ベテラン女優は活躍の場をテレビに
一方、女優陣で目立つのはジェニファー・ローレンスくらい。『世界にひとつのプレイブック』(日本公開は2月22日)の風変わりな女の子役で見事な演技を見せ、アカデミー賞主演女優賞の大本命とまでいわれている。同じく主演作『ハンガー・ゲーム』は12年の興行収入で3位に輝くなど、22歳にして早くもドル箱スターの地位を築いている。
問題は2月のアカデミー賞で、ローレンスの対抗馬になりそうな存在が見当たらないことだ。オスカー常連のメリル・ストリープは『ホープ・スプリングス』で倦怠期の夫婦の妻を演じたが、今回のノミネートはなさそう。キーラ・ナイトレイ主演の『アンナ・カレーニナ』は賛否両論だし、ニコール・キッドマンが死刑囚に恋をする女性役に挑戦した『ペーパーボーイ』は酷評された。
とにかく、これほど女優の活躍が見られない年も珍しい。先に挙げた『リンカーン』『アルゴ』『フライト』などには、女性の重要な役どころすらない。
ハリウッドの女性進出は前進と後退を繰り返している。ジュリア・ロバーツが立て続けに大ヒットを世に送り出した時代は過去のもの。ハル・ベリーやリース・ウィザースプーンなど過去のオスカー女優も最近は役に恵まれていない。
ベテラン女優はテレビに軸足を移しつつある。9年間もオスカー候補から遠ざかっているジュリアン・ムーアは、テレビ映画『ゲーム・チェンジ』で共和党の元副大統領候補サラ・ペイリンを好演してエミー賞を受賞した。
小作品で名演技を見せても無駄?
映画会社は男女の格差を不況のせいにする。観客動員数が減少する一方なので、男優主演で実績のある『スパイダーマン』や『トータル・リコール』をリメークするのだ、と。
もっと小規模な作品では、女優たちの活躍も光っている。だが昨年のアカデミー賞では、それぞれ素晴らしい演技を見せたフェリシティー・ジョーンズやティルダ・スウィントン、キルスティン・ダンストらはノミネートすらされなかった。こうした小作品の公開時期が遅いことや、市場が縮小していることも理由と考えられる。
こうした状況で、外国人女優に注目が集まっているのも偶然ではないだろう。フランス人のマリオン・コティヤールは『君と歩く世界』(日本公開は4月6日)で、事故で両足を失ったシャチの調教師を熱演。同じくフランス人のエマニュエル・リヴァは『愛、アムール』(同3月9日)で引退した教師を演じて絶賛された。
『ヒッチコック』で、ヒッチコックの妻アルマに扮するのはイギリス人のヘレン・ミレン。夫はスポットライトを一身に浴び、妻は黙々と映画の編集の最終確認を行う。ハリウッドにおける男性と女性の力学は、この頃から変わらないようだ。
[2013年1月 2日号掲載]