最新記事

アカデミー賞

主演女優が足りない!オスカー候補の男女格差

2012年は男性主演映画の当たり年だったが、女優陣の活躍の場は激減。アカデミー賞でも主演女優候補は「がら空き」状態に

2013年2月18日(月)16時03分
ラミン・セトゥデ(エンターテインメント担当)

独走中 アカデミー賞の主演女優賞に有力視されるジェニファー・ローレンス Mario Anzuoni-Reuters

 毎年、冬の映画賞シーズンが近づくと、各映画会社は売り込みのためにディナーパーティーを開く。しかし今回は少し様子が違う。賞レースの目玉になるようなスター女優がいないのだ。

 もともと映画産業は男性中心で、主役も男性ばかりだという批判は昔からあった。とはいえ、12年ほど主演の男女格差が広がった年はないだろう。

 興行収入で12年トップの『アベンジャーズ』を見るといい。アメコミヒーローが勢ぞろいするこの作品で、女性ヒーローは1人だけ。この役を演じたスカーレット・ヨハンソンは07年以降、主演映画がない。

 アカデミー賞の有力候補を見ても、主演男優賞候補に選びたい俳優は大勢いる。『リンカーン』(日本公開は4月19日)で第16代大統領を演じたダニエル・デイ・ルイス、『THE MASTER』(同3月22日)で第2次大戦の帰還兵に扮したホアキン・フェニックス。デンゼル・ワシントンは『フライト』(同3月1日)で墜落事故の危機を回避したパイロット役を演じて高く評価された。

 それだけではない。不気味なほどアルフレッド・ヒッチコック監督になり切った『ヒッチコック』(同13年春)のアンソニー・ホプキンス。『アルゴ』で主演・監督を務めたベン・アフレック。ジョン・ホークスは、初の性体験に挑もうとするポリオ患者を描いた『ザ・セッションズ』で最高の演技を披露した。

ベテラン女優は活躍の場をテレビに

 一方、女優陣で目立つのはジェニファー・ローレンスくらい。『世界にひとつのプレイブック』(日本公開は2月22日)の風変わりな女の子役で見事な演技を見せ、アカデミー賞主演女優賞の大本命とまでいわれている。同じく主演作『ハンガー・ゲーム』は12年の興行収入で3位に輝くなど、22歳にして早くもドル箱スターの地位を築いている。

 問題は2月のアカデミー賞で、ローレンスの対抗馬になりそうな存在が見当たらないことだ。オスカー常連のメリル・ストリープは『ホープ・スプリングス』で倦怠期の夫婦の妻を演じたが、今回のノミネートはなさそう。キーラ・ナイトレイ主演の『アンナ・カレーニナ』は賛否両論だし、ニコール・キッドマンが死刑囚に恋をする女性役に挑戦した『ペーパーボーイ』は酷評された。

 とにかく、これほど女優の活躍が見られない年も珍しい。先に挙げた『リンカーン』『アルゴ』『フライト』などには、女性の重要な役どころすらない。

 ハリウッドの女性進出は前進と後退を繰り返している。ジュリア・ロバーツが立て続けに大ヒットを世に送り出した時代は過去のもの。ハル・ベリーやリース・ウィザースプーンなど過去のオスカー女優も最近は役に恵まれていない。

 ベテラン女優はテレビに軸足を移しつつある。9年間もオスカー候補から遠ざかっているジュリアン・ムーアは、テレビ映画『ゲーム・チェンジ』で共和党の元副大統領候補サラ・ペイリンを好演してエミー賞を受賞した。

小作品で名演技を見せても無駄?

 映画会社は男女の格差を不況のせいにする。観客動員数が減少する一方なので、男優主演で実績のある『スパイダーマン』や『トータル・リコール』をリメークするのだ、と。

 もっと小規模な作品では、女優たちの活躍も光っている。だが昨年のアカデミー賞では、それぞれ素晴らしい演技を見せたフェリシティー・ジョーンズやティルダ・スウィントン、キルスティン・ダンストらはノミネートすらされなかった。こうした小作品の公開時期が遅いことや、市場が縮小していることも理由と考えられる。

 こうした状況で、外国人女優に注目が集まっているのも偶然ではないだろう。フランス人のマリオン・コティヤールは『君と歩く世界』(日本公開は4月6日)で、事故で両足を失ったシャチの調教師を熱演。同じくフランス人のエマニュエル・リヴァは『愛、アムール』(同3月9日)で引退した教師を演じて絶賛された。

『ヒッチコック』で、ヒッチコックの妻アルマに扮するのはイギリス人のヘレン・ミレン。夫はスポットライトを一身に浴び、妻は黙々と映画の編集の最終確認を行う。ハリウッドにおける男性と女性の力学は、この頃から変わらないようだ。

[2013年1月 2日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

IT大手決算や雇用統計などに注目=今週の米株式市場

ワールド

バンクーバーで祭りの群衆に車突っ込む、複数の死傷者

ワールド

イラン、米国との核協議継続へ 外相「極めて慎重」

ワールド

プーチン氏、ウクライナと前提条件なしで交渉の用意 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドローン攻撃」、逃げ惑う従業員たち...映像公開
  • 4
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 5
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    体を治癒させる「カーニボア(肉食)ダイエット」と…
  • 8
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中