またデップに恋したくなる吸血鬼映画
ジョニー・デップとティム・バートンの名コンビが、子供時代に夢中になった人気ドラマ『ダーク・シャドウ』をリメーク
200年ぶりの復活 デップ演じる吸血鬼は現代アメリカの日常生活に戸惑う © 2012 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED
風変わりな衣装と特殊メイクに身をつつんだジョニー・デップが吸血鬼に扮する『ダーク・シャドウ』に、私はあまり期待していなかった。
60〜70年代にアメリカで人気をを博したテレビドラマシリーズをティム・バートン監督が映画化したこの作品は、どこかで聞いたような要素に満ちている。吸血鬼、テレビドラマの映画化、バートンとデップのコラボレーション......。
実際、映画のかなりの部分はつまらなく感じられる。2人がタッグを組んだ10年の『アリス・イン・ワンダーランド』と同じく、『ダーク・シャドウ』は豪華な衣装とアッと驚く舞台装置、ダニー・エフマンの音楽に頼りすぎており、テンポのいいストーリー構成を軽視している。
それでもこの作品には、不自然で奇抜すぎた『アリス』を超える何かがある。少なくとも、子供時代に原作ドラマの大ファンだったというバートンとデップが、それぞれの本領を発揮しているのは間違いない。
テレビ版の放映が終了した1971年に7歳だったデップは、このドラマにのめりこみ、現代に蘇る吸血鬼バーナバス・コリンズになりたいと切望していたという。
それもうなずける。変わり者の自分を受け入れることで初めて幸せを感じられる憂鬱なアウトサイダー役は、デップの真骨頂。長年の盟友バートンは、デップと組んだ8作品のほとんどすべてで、彼にそうした役柄を用意してきた。
過激な衣装とメイクというバートンのもう1つの得意分野も、デップの好みにぴったりはまる。
こうして誕生したデップ版の吸血鬼バーナバスが、映画をひとつにまとめ上げている。ストーリーは一貫性が乏しく、失敗としか言いようがない脇役もいるが、ひとたびデップが登場すると、スクリーンはエネルギーとユーモア、そして、かつて初めてデップのファンになったときの気持ちを思い出させるようなセックスアピールでいっぱいになる。
デップ演じる18世紀の貴族バーナバスは、裕福な両親と共に幼少期を過ごしたメイン州コリンスポートの墓地で200年間眠り続ける。彼が吸血鬼になったのは、はかなげな美女ジョセット(ベラ・ヒースコート)に恋い焦がれて、メイドのアンジェリーク(エバ・グリーン)を振ったため。怒り狂ったアンジェリークは魔女の本性を現し、バーナバスを吸血鬼にして鎖に縛られた棺桶に閉じ込めてしまう。
時は流れて1972年、ようやく蘇ったバーナバスは、かつて自分が住んでいたコリンウッド邸に舞い戻り、邸宅の住み込み家庭教師ビクトリア・ウィンターズ(ジョセット役のヒースコートが1人2役)と恋に落ちる。だがアンジェリークは生き続けており、あの手この手でバーナバスに復讐する。
バーナバスが70年代のアメリカのポップカルチャーを経験して驚く様子は、馬鹿げているが面白い。バスルームの鏡の前で歯を磨くシーンで、鏡に映るのは宙に浮かぶ歯ブラシだけ。昼寝にぴったりの場所が見つからなくて冷蔵庫が入っていた空箱で眠るが、緩衝材が体にまとわりついて苦悩の表情を浮かべる。
詰め込みすぎのラストシーンであくびが出ることからわかるように、吸血鬼が18世紀には存在しなかったシリアルや照明器具に戸惑うだけでは映画としては不十分だ。それでも、映画の中盤に上質の笑いをちりばめる効果はある。