最新記事
映画『ジョン・カーター』は歴史に残る失敗作
2億5000万ドルを投じたディズニー生誕110周年記念作が台無しになってしまった理由
「意味不明」 野心だけは『アバター』並みだったが(日本公開は4月13日) ©2011 Disney. JOHN CARTER™ ERB, Inc.
ディズニーが2億5000万ドルを投じた最新の3Dスペクタクル巨編『ジョン・カーター』に、ハリウッド中が首をかしげている。「ウォルト・ディズニー生誕110周年記念作」と銘打つ野心は『アバター』並みだが、興行的には映画史に残る大失敗になりそうだ。
このSFアクションのCMを見た人も、一体何の話かといぶかったことだろう。革の武具を着たマッチョな主人公が円形闘技場でエイリアンと戦い、四つ足の獣の群れを蹴散らし、セクシーなプリンセスを誘惑する。まるで『グラディエーター』と『タイタンの戦い』と『スター・ウォーズ』を一緒くたにしたような作品だ。
前売り状況から見た興行予想は今のところ惨憺たるもの。「オタク世代は振り向かないし、家族連れには気味が悪過ぎる。ディズニー・ブランドを冠しておいてランクはPG13(13歳未満は保護者の指導が必要)。一体誰に見てほしい映画なのか分からない」と、ライバル映画会社の幹部は言う。
責任追及の矛先は製作現場からカリフォルニア州バーバンクのディズニー本社に移っている。ただリッチ・ロス会長にとって幸運なのは、『ジョン・カーター』は前任者から引き継いだ作品だということ。4億ドルの興行収入を上げなければ赤字になるピンチだが、非難の的にされることは逃れている。
大作なのに監督が力不足
映画の原作『火星のプリンセス』を書いたのは、『ターザン』で知られる小説家エドガー・ライス・バローズ。彼の小説を映画化する話は80年代からたくさんあった。トム・クルーズも含めてさまざまな主演候補や監督候補の名が挙がっては消え、07年に遂に映画化を決めたのが当時のディズニー会長ディック・クックだ。そして脚本・監督に起用されたのがピクサーのアンドリュー・スタントンだった。
スタントンはアニメ映画『ファインディング・ニモ』と『ウォーリー』の2作品で14億ドル近くを売り上げた実績があるが、実写アクション映画の『ジョン・カーター』にスタントンという人選はハリウッドを驚かせた。「これだけの大金を使いながらスターが出ない。そんな映画を成功させられるのはピーター・ジャクソンかジェームズ・キャメロンぐらいだ」と、別の映画会社の幹部は言う。
いずれにせよ、ロスの力量が本当に問われるのは『オズの魔法使』の前章に当たる『オズ』など、彼が会長として製作を決めた大ヒット狙いの作品が公開される13年以降だ。「『ジョン・カーター』が失敗しても、ロスは古くからいる経営陣に責任を取らせて自分は生き延びるだろう」と、ライバル会社の幹部は言う。
ただし、5月に公開するマーベル・コミックスの『アベンジャーズ』の成否となれば話は別だ。この作品と『アイアンマン3』の配給権を買収したのは、ロス自身だからだ。先のライバル会社幹部は言う。「もし『アベンジャーズ』までが駄作だったら、ロスはまったく違う運命を歩むことになるだろう」
[2012年2月29日号掲載]