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韓流戦争映画はここまで来た

2012年3月16日(金)15時56分
グレイディー・ヘンドリックス(ニューヨーク・アジア映画祭共同創設者)

最後にシニカルな展開

 朝鮮戦争をテーマとする近年の韓国映画には、ある種の傾向が見て取れる。誰かが国のために命を落とすのは、上官の命令が間違っていたか、部隊全員が死をいとわずに作戦を実行した場合が多い。兵士が戦場で昇格するのは、上官が戦闘で死亡したからというより、上官が部下に殺されたり上官自身が狂って自殺した結果であることが多い。

 韓国映画が描く南北朝鮮の争いには、効果的な戦略も正当な目的もありはしない。南北の統一など、はなから無理だと思われていて、命令はことごとく的外れだとされる。指揮官は勝てるはずのない戦争を優勢に進めているように取り繕い、実際に戦場で戦っている兵士たちは、ともかく生きて帰りたいと願っている。

『高地戦』の終盤にも、ハリウッドであれば考えもしないようなシニカルな展開が待っている。登場人物の戦ってきた戦争が、倫理的には許されざるものだったとされる。「俺たちはあまりに多くの命を奪った。みんな地獄行きだ」と、登場人物の1人が言う。

 最後は、ジョン・カーペンター監督『遊星からの物体X』(82年)のエンディングへのオマージュで、南北朝鮮の関係を要約する仕掛けになっている。お互いを信用していない2人の男が暗闇の中に座り、1本の酒を分け合っている。そして、相手を殺せという命令が下るのを待っている......。

[2012年2月22日号掲載]

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