『アバター』×『ラブリーボーン』対談
もう1度『タイタニック』を作るとしたら
キャメロン 感情の籠もった演技を生み出せるどうかは目に懸かっている。目をどんなふうに動かすか、目にどんな照明を当てるか、目の中の光の反射と屈折をどう捉えるかが大切だ。
もちろん、わざと目の大きいキャラクターにした。『アバター』のキャラクターはメーキャップでは不可能だ。メーキャップによる方法は、この30年間に『スター・ウォーズ』や『スター・トレック』でやり尽くされている。
それでも、キャラクターは俳優の演技で作られるものだ。メディアはそれを観客に伝えてほしい。『アバター』に登場するネイティリは、100%女優のゾーイ(・サルダナ)が作り上げたものだ。
最初は技術的なことを秘密にしておこうと考えた。カーテンを開いて手の内を見せたりせず、マジックを楽しんでもらおうと思っていた。でも、最近になってちょっと考えが変わった。映画の中のネイティリとゾーイの演技を並べて見て、肉体と顔の表情の演技を理解してほしい。
ゾーイは何カ月もアーチェリーと武術の訓練を受けて、体の動かし方と優雅さを身に付けた。彼女自身が作り出したものがキャラクターに投影されているんだ。
ジャクソン 俳優は絶対に替えの利かない存在だね。将来はコンピューターが作ったキャラクターのほうが好まれるだろうなんて、そんな考えはどうかしてるよ。
これまでは顔に特殊メークを施してやっていたことを、モーションキャプチャーでもっと感情豊かに表現できるようになった。それは素晴らしいことだ。でも、俳優を使わずにコンピューターで一からキャラクターを作り上げるのは、お金が掛かり過ぎる。俳優を使うより20倍は高くつくだろう。
キャメロン もう1つ、あまり話題になっていないが、コンピューターは俳優の年齢を変えることもできるね。メークだと年寄りに見せることはできても、若く見せるのは難しい。大河小説のような映画に40代の俳優を使うとすると、15歳から80歳まで同じ1人の俳優に演じてもらうことができる。『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』みたいな映画の場合だ。
クリント・イーストウッドは『ダーティハリー』をもう1本作れる。70年代そのままの若さでね。どんな演技をするかは彼次第だ。声も今の彼の声でいい。私たちはそれを30歳若返らせるだけだ。
私がもう1度『タイタニック』を作るとしたら、まったく違うやり方をするだろう。長さ200メートル以上の巨大セットはもう要らない。小さな部分セットをいくつか作って、CGで一体化する。キスシーンのために完璧な夕焼けを1週間待つ必要もない。緑のスクリーンの前で演技を撮影して、夕焼けは別に選べばいい。
CGよりストーリーが求められる時代に
ジャクソン まだみんなが気付いていない素晴らしい方法がたくさんあるね。問題はテクノロジーに関心が集まり過ぎていることだ。
映画業界が悪いのかもしれない。ストーリーより技術的なことばかり強調している。このままだと、ストーリーがつまらないのも脚本が悪いのもCGのせいだということになる。映画の質が落ちたのもCGのせいにされてしまう。
CGでも既にあらゆるものが出尽くしたね。恐竜も異星人も出たし、『アバター』では本当にリアルな生物も出てきた。これからはCGへの興味よりも、再び優れたストーリーが求められる時代になると思う。ここしばらく、みんなすごいおもちゃに夢中になって、ストーリーがおろそかになっていたかもしれない。
キャメロン 君の言うとおりだよ。『アバター』の宣伝のとき、最初は映画ファンの興味を引こうとしてイメージばかりの予告編を作ったんだが、見た人は欲求不満だった。そこでストーリーを中心にした予告編を作り、主なキャラクターや背景についても説明したら、注目度がいきなり高まったんだ。この映画のマーケティング戦略の例を見ただけでも、ストーリーの大切さがよく分かるはずだ。
[2010年1月27日号掲載]