リアル過ぎてヤバいドラマ
米航空機爆破未遂事件で『24』の評価はアップ。現実世界とドラマの境界線はますます曖昧になりつつある
正義漢 『24』の筋立てはワンパターンと言われるが(写真は主人公ジャック役のキーファー・サザーランド) Danny Moloshok-Reuters
24時間の間に起きる出来事をリアルタイムで描く人気ドラマ『24』のシーズン8が、1月17日にアメリカでスタートした。
主人公ジャック・バウアー(キーファー・サザーランド)は危険な任務から離れて、家族と過ごす時間を大事にするつもりだった。ところがニューヨークで飛行機に乗る直前、とんでもない情報が飛び込んでくる。
そもそもテロリストと無縁の生活を送ろうというのが無理な話だ。ジャックは人命を救うため、一刻を争う闘いに身を投じる。
これは『24』のお決まりのパターンだ。アメリカ人が危険にさらされ、ジャックが手段を問わずに脅威をたたきつぶすという展開。テレビ評論家は『24』のシーズン6が始まる頃、ワンパターンの大げさな筋立てのせいで視聴者に見放されるだろうと評していた。
世論を動かす人気作品
だが予想は外れた。シーズン8は面白さだけでなく現実世界の出来事を彷彿させるリアルさまで、番組に勢いがあった頃のレベルに戻ったように思える。
『24』への関心が高まった背景には09年のクリスマスに起きた米航空機爆破未遂事件がある。事件が起きなかったら、シーズン8は代わり映えのしない内容だと思われたかもしれない。
いまアメリカ人の視聴者が求めているのはまさに『24』が繰り返してきたテーマ。ジャックのような正義漢が多くの障害をはねのけて悪に立ち向かう物語だ。
シーズン2では、いかにも怪しげなイラン人が潔白で、彼の白人の婚約者がテロに関与していた。09年12月に起きたテロ未遂事件の容疑者がナイジェリア人だったように、テロリストは中東系の人物とは限らない。早くから『24』はこの点に着目していた。
『24』のシーズン1がスタートしたのは01年の9・11テロの2カ月後。その時点には及ばないが、今が視聴者の関心を集めやすい状況であるのは間違いない。脅威が身近に存在することを現実世界が突き付けたのだから。
驚くほど「リアル」なドラマは『24』だけではない。3月にシーズン3が始まる予定の『ブレイキング・バッド』もその1つだ。
主人公は温厚な高校の化学教師だったが、ドラッグの製造に手を染める。きっかけは末期の肺癌と診断されたこと。主人公は高額の治療費で家族を苦しめるより、彼らに大金を残そうと考える。
ところが08年1月にシーズン1がスタートする1カ月前、カリフォルニア州の化学教師が同じ種類のドラッグを作って逮捕されるという事件が起きた。今やドラマと現実を隔てる壁が崩れてしまったかのようだ。
現代人の心に潜む不安をストーリーに取り込んだドラマもある。今夏にシーズン3が始まる予定の『レバレッジ』の主人公は保険会社の元調査員。自分の子供が重病になり、勤務先の会社が未認可治療の保険適用を認めなかったせいで子供を亡くし、生活は崩壊。彼は詐欺師のチームを結成し、権力に苦汁をなめさせられた被害者に代わって敵討ちを行うようになる。
時事問題はドラマのリメークにも利用される。エイリアンの侵略をテーマにした80年代のSFドラマ『V』のリメーク版が09年11月に放映された。「希望と変革」を掲げながら実は邪悪な目的を持ったエイリアンが登場するが、オバマ政権を風刺しているのは明らかだった。
複数の調査によると、多くの若者が情報を得る手段として頼っているのは時事問題をネタにした風刺番組『デーリー・ショー』だ。しかしホストのジョン・スチュワートは、自分の役割は報道ではなく、視聴者を楽しませることだと語っている。