「ワーケーション」「二地域居住」定着のカギは地方のモビリティー──ウィズコロナ時代の新しい働き方に応じた交通インフラ整備を
マイカーを用いて他人を有償で輸送することは、道路運送法で原則禁止されているが、自家用有償旅客運送は、事前に自治体の首長や交通事業者等が合意することや、ドライバーが通常の1種免許に加えて大臣認定講習を受講して安全を確保したりすることを条件に、例外的に認められている。
新型コロナウイルスが感染拡大する以前に、国は、自家用有償旅客運送を地方におけるインバウンドの移動の受け皿とする目算を立て、今年の通常国会で導入を円滑化する法改正を行った。想定外の新型コロナによって、インバウンドは一時的に姿を消しているが、代わりに地方で増えつつあるのが、都市部から仕事の拠点を移そうとするワーカーたちである。
筆者は研究員の眼「新型コロナ対策で見えてきた高齢者向けモビリティーサービス~貨客混載×自家用有償旅客運送と地方版MaaSへの可能性~」(2020年5月21日)の中で、地方において、この制度の導入を進めるべきだと主張した。そして、高齢者向けに飲食料の宅配サービスを実施したり、中期的には他の交通情報や観光情報、宿泊施設情報とも連携してシステムをデジタル化し、将来的にMaaS(Mobility as a Service)への昇華を目指したりすることを提案した。このコラムの中では、移動に困難がある地域の高齢者らに焦点を当てて述べていたが、都市部から地方を訪れるワーカーたちにとっても、同じサービスを実施することが利便性を高めるために有効だと考えられる。
ここで、自家用有償旅客運送の問題点を押さえておく必要がある。この制度は、従来から過疎地等における公共交通の補完手段とされてきたにもかかわらず、導入が進んでこなかった要因の一つには、登録ドライバーが受け取る収入が少ないため、担い手が少ないことがある。この制度では、輸送の対価はタクシー料金の半額程度が目安とされているためである。
しかし、ワ―ケーションや二地域居住のように、都市部から来訪するワーカーたちが乗客となれば、改善が期待できる。これまでのように地域の高齢者らを主な乗客と想定した場合、輸送範囲は自宅からや薬局、役所など近距離が多いと考えられたが、都市部から訪れるワーカーが乗客となれば、空港や近郊の観光地、人里離れたエリアの宿泊施設など、輸送範囲がより広範になると予想される。輸送距離が延びれば、ドライバーの収入が増え、担い手確保が今よりも容易になると考えられる。ただし、今後の推移を見守り、導入のハードルが依然高いようであれば、さらなる制度の見直しが必要となるだろう。