最新記事

経営

ダイバーシティ論は「グローバル戦略に必要」なだけではない

2018年10月25日(木)16時30分
松野 弘(千葉大学客員教授、現代社会総合研究所所長)

日本でも2000年に「ダイバーシティ・マネジメント」の機運が生まれたが

2000年に、日経連(当時)が「日経連ダイバーシティ・ワーク・ルール研究会」を発足させたのを皮切りに、企業側も環境に配慮した経営としての「サステナビリティ・マネジメント」(Sustainability Management)とともに、人材の多様化に対応した「ダイバーシティ・マネジメント」を積極的に取り入れていこうとする機運が生まれた。

今後、グローバル化の展開の中で、企業が「ダイバーシティ・マネジメント」に対して留意すべきことは、(1)多様な背景をもつ従業員を確保していくためにダイバーシティ倫理に基づいた企業行動をとっていくこと、(2)多様な背景をもつ従業員を雇用している企業は多様な顧客に十分に対応できること、(3)グローバル市場は言語的能力、文化的な感受性およびそれぞれの市場間における国民性やその他の相違をよく知っている労働力を必要とすること、などである。(Post, J.E.et al., 2002=2012:128)

アメリカン・スタンダードに象徴されるような一元的な価値観によるグローバル市場の支配という、これまでの経営戦略は、世界の多様な市場や顧客を獲得していくには困難となりつつある。今後、グロ-バル市場を勝ち抜いていくためには、ハイブリッドな(異文化価値融合的な)価値観をもち、多元的な市場反応ができるような多様性のある人材が必須の要素となりつつある。

さらに、「ダイバーシティ」を「個人の確立の問題であり、自分の生き方や価値観を大切にしながら他人の生き方や価値観を認め、社会の成員がいきいきと活動し、人生を楽しむことを可能にするものである」といったような社会的価値としての理念を基本とした上で、それを経営戦略に活かし、そうした戦略を推進していく人材を育成していくことができれば、その企業は真の「ダイバーシティ・マネジメント」に成功したグロ-バル企業になることができるのである。

[参考資料]
●「アメリカにおけるアファーマティブ・アクションの展開:制度・争点・課題」(岡本葵・藤田英典、「Education Studies 51」、International Christian University、2009年)
●「CSRの観点からのダイバーシティ(1)ダイバーシティとは」/「CSR の観点からのダイバーシティ(3)ダイバーシティ推進の意味すること」(堀井紀壬子、日経CSRプロジェクト、日本経済新聞社広告局、2005年5月・8月)
●「今、求められる「ダイバーシティ・マネジメント」(福田敦之、日本の人事部、2007年)
●『企業と社会(下)』(J.E. Post et al., 松野弘他監訳、ミネルヴァ書房、2012年)

[筆者]
松野 弘
博士(人間科学)。千葉大学客員教授。早稲田大学スポーツビジネス研究所・スポーツCSR研究会会長。大学未来総合研究所所長、現代社会総合研究所所長。日本大学文理学部教授、大学院総合社会情報研究科教授、千葉大学大学院人文社会科学研究科教授、千葉商科大学人間社会学部教授を歴任。『現代社会論』『現代環境思想論』(以上、ミネルヴァ書房)、『大学教授の資格』(NTT出版)、『環境思想とは何か』(ちくま新書)、『大学生のための知的勉強術』(講談社現代新書)など著作多数。

ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中