ダイバーシティ論は「グローバル戦略に必要」なだけではない
日本でも2000年に「ダイバーシティ・マネジメント」の機運が生まれたが
2000年に、日経連(当時)が「日経連ダイバーシティ・ワーク・ルール研究会」を発足させたのを皮切りに、企業側も環境に配慮した経営としての「サステナビリティ・マネジメント」(Sustainability Management)とともに、人材の多様化に対応した「ダイバーシティ・マネジメント」を積極的に取り入れていこうとする機運が生まれた。
今後、グローバル化の展開の中で、企業が「ダイバーシティ・マネジメント」に対して留意すべきことは、(1)多様な背景をもつ従業員を確保していくためにダイバーシティ倫理に基づいた企業行動をとっていくこと、(2)多様な背景をもつ従業員を雇用している企業は多様な顧客に十分に対応できること、(3)グローバル市場は言語的能力、文化的な感受性およびそれぞれの市場間における国民性やその他の相違をよく知っている労働力を必要とすること、などである。(Post, J.E.et al., 2002=2012:128)
アメリカン・スタンダードに象徴されるような一元的な価値観によるグローバル市場の支配という、これまでの経営戦略は、世界の多様な市場や顧客を獲得していくには困難となりつつある。今後、グロ-バル市場を勝ち抜いていくためには、ハイブリッドな(異文化価値融合的な)価値観をもち、多元的な市場反応ができるような多様性のある人材が必須の要素となりつつある。
さらに、「ダイバーシティ」を「個人の確立の問題であり、自分の生き方や価値観を大切にしながら他人の生き方や価値観を認め、社会の成員がいきいきと活動し、人生を楽しむことを可能にするものである」といったような社会的価値としての理念を基本とした上で、それを経営戦略に活かし、そうした戦略を推進していく人材を育成していくことができれば、その企業は真の「ダイバーシティ・マネジメント」に成功したグロ-バル企業になることができるのである。
[参考資料]
●「アメリカにおけるアファーマティブ・アクションの展開:制度・争点・課題」(岡本葵・藤田英典、「Education Studies 51」、International Christian University、2009年)
●「CSRの観点からのダイバーシティ(1)ダイバーシティとは」/「CSR の観点からのダイバーシティ(3)ダイバーシティ推進の意味すること」(堀井紀壬子、日経CSRプロジェクト、日本経済新聞社広告局、2005年5月・8月)
●「今、求められる「ダイバーシティ・マネジメント」(福田敦之、日本の人事部、2007年)
●『企業と社会(下)』(J.E. Post et al., 松野弘他監訳、ミネルヴァ書房、2012年)
[筆者]
松野 弘
博士(人間科学)。千葉大学客員教授。早稲田大学スポーツビジネス研究所・スポーツCSR研究会会長。大学未来総合研究所所長、現代社会総合研究所所長。日本大学文理学部教授、大学院総合社会情報研究科教授、千葉大学大学院人文社会科学研究科教授、千葉商科大学人間社会学部教授を歴任。『現代社会論』『現代環境思想論』(以上、ミネルヴァ書房)、『大学教授の資格』(NTT出版)、『環境思想とは何か』(ちくま新書)、『大学生のための知的勉強術』(講談社現代新書)など著作多数。
2024年11月26日号(11月19日発売)は「超解説 トランプ2.0」特集。電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること。[PLUS]驚きの閣僚リスト/分野別米投資ガイド
※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら