報復関税を科す前に中国貿易のパラドクスを解明せよ
CHINA’S TRADE PARADOX
こうした措置は競争力をそぐはずだ。人民元高にアメリカの保護主義が重なれば、輸出は減ると直感で分かる。中国の保護主義と刺激策も同様の影響をもたらすだろう。経済学者アバ・ラーナーの「輸入税は輸出税」説を信じるなら、世界金融危機後の輸入の急激な減少は輸出の競争力の妨げになったはず。刺激策が後押しした非貿易財の成長も、人件費と物価の上昇により、貿易財の競争力を弱らせたはずだ。
だが快進撃は続いた。製造品の輸出シェアは、2008年頃の12%から22年には22%まで跳ね上がった。中国の経常黒字は再び急速に拡大し、人民元安が進行中。欧米では報復措置を求める声が高まっている。
だがまずは中国のパラドクス、すなわち輸出が通貨の上昇や保護主義など従来の政策手段を物ともせずに成長し続ける理由を解明するところから始めるべきだ。それは政府が型破りな方法で、あるいは秘密裏に輸出品を巨額の補助金で支えているせいなのか。それとも中国企業がEVなどの新技術を効率的に習得した結果なのか。
欧米は緊張をあおるだけの報復措置に飛び付かず、こうした問題を中国と議論し、分析結果に合わせて対処するべきだ。
アルビンド・スブラマニアン
ARVIND SUBRAMANIAN
インドの経済学者。ピーターソン国際経済研究所の上級研究員、ハーバード大学ケネディ政治学大学院の客員講師。2014~18年にかけては、インド政府の首席経済顧問を務めた。
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