最新記事
対中貿易

報復関税を科す前に中国貿易のパラドクスを解明せよ

CHINA’S TRADE PARADOX

2024年8月27日(火)12時22分
アルビンド・スブラマニアン(元インド政府首席経済顧問)

こうした措置は競争力をそぐはずだ。人民元高にアメリカの保護主義が重なれば、輸出は減ると直感で分かる。中国の保護主義と刺激策も同様の影響をもたらすだろう。経済学者アバ・ラーナーの「輸入税は輸出税」説を信じるなら、世界金融危機後の輸入の急激な減少は輸出の競争力の妨げになったはず。刺激策が後押しした非貿易財の成長も、人件費と物価の上昇により、貿易財の競争力を弱らせたはずだ。

だが快進撃は続いた。製造品の輸出シェアは、2008年頃の12%から22年には22%まで跳ね上がった。中国の経常黒字は再び急速に拡大し、人民元安が進行中。欧米では報復措置を求める声が高まっている。


だがまずは中国のパラドクス、すなわち輸出が通貨の上昇や保護主義など従来の政策手段を物ともせずに成長し続ける理由を解明するところから始めるべきだ。それは政府が型破りな方法で、あるいは秘密裏に輸出品を巨額の補助金で支えているせいなのか。それとも中国企業がEVなどの新技術を効率的に習得した結果なのか。

欧米は緊張をあおるだけの報復措置に飛び付かず、こうした問題を中国と議論し、分析結果に合わせて対処するべきだ。

©Project Syndicate


newsweekjp_20240827020921.pngアルビンド・スブラマニアン
ARVIND SUBRAMANIAN
インドの経済学者。ピーターソン国際経済研究所の上級研究員、ハーバード大学ケネディ政治学大学院の客員講師。2014~18年にかけては、インド政府の首席経済顧問を務めた。

2024091724issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年9月17日/24日号(9月10日発売)は「ニュースが分かる ユダヤ超入門」特集。ユダヤ人とは何なのか/なぜ世界に離散したのか/優秀な人材を輩出してきたのはなぜか…ユダヤを知れば世界が分かる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ヒズボラの爆発したポケベル、台湾企業「権利持つ別会

ワールド

バイデン政権下で12人目のLGBTQ判事を承認、歴

ワールド

北朝鮮が複数の短距離弾道ミサイル、内陸部の東岸付近

ビジネス

旭化成、インテグラルに旭化成メディカルを譲渡 56
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    北朝鮮で10代少女が逮捕、見せしめに...試聴した「禁断の韓国ドラマ」とは?
  • 2
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢な処刑」、少女が生き延びるのは極めて難しい
  • 3
    エリザベス女王とフィリップ殿下の銅像が完成...「誰だこれは」「撤去しろ」と批判殺到してしまう
  • 4
    地震の恩恵? 「地震が金塊を作っているかもしれない…
  • 5
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優…
  • 6
    浮橋に集ったロシア兵「多数を一蹴」の瞬間...HIMARS…
  • 7
    原作の「改変」が見事に成功したドラマ『SHOGUN 将軍…
  • 8
    この「自爆ドローンでロシア軍撃破の瞬間」映像が「…
  • 9
    バルト三国で、急速に強まるロシアの「侵攻」への警…
  • 10
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 3
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢な処刑」、少女が生き延びるのは極めて難しい
  • 4
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優…
  • 5
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 6
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 7
    アメリカの住宅がどんどん小さくなる謎
  • 8
    北朝鮮で10代少女が逮捕、見せしめに...試聴した「禁…
  • 9
    キャサリン妃、化学療法終了も「まだ完全復帰はない…
  • 10
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 4
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 5
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 6
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 7
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 8
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 9
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 10
    止まらない爆発、巨大な煙...ウクライナの「すさまじ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中