最新記事

日本経済

訪日観光客受け入れ、ゆっくりと再開 入り混じる期待と不安

2022年5月31日(火)10時43分

風向きが変わったのは4月下旬からの大型連休。外遊した首相らが訪問先で「開国」を迫られたことが背景の1つにあると、同役員は解説する。3年ぶりに行動制限のなかった連休明けに感染者が急増しなかったことも要因の1つで、「これなら(外国人)観光客を入れても世論は納得してくれるのでないかと政府も判断したのだと思う」と、別の観光会社の幹部は話す。

コロナ以前に戻るのは1年か2年先

国内各地でホテルを運営するリソルには、海外旅行に行けない日本人からの予約のほか、代理店を通じてドイツやフランスなど欧州から団体ツアーの仮押さえや問い合わせが入ってきている。それでも1日14万人が入国していたころに比べれば、上限2万人では即効性のある効果が見込めない。

影山秀明ホテル事業部長は、「コロナ以前のように、ホテルの前にバスが着いてどんどん団体が入ってくるのは1年か2年くらい先」と予想する。「インバウンドのお客様が絶対に必要。ホテルもレストランも観光業もインバウンドのお客様が来なかったら成り立たない」と語り、「海外並みに(国境を)開けてほしい」と要望する。同社は東京五輪前に4カ所でホテルを新設。インバウンド需要の増加を期待したが、無観客開催が決まり空振りに終わった。

一方、ANAホールディングス幹部は、緩和が段階的、限定的でも「富裕層向けのカスタマイズ旅行プランであれば、ウィズコロナ時代の観光として新たなビジネスになる」と期待を寄せる。同社を含めた複数の企業と地方自治体は4月19日から、少人数でも消費額単価の高い富裕層を対象とした旅行サービスの実証事業を始めている。

岸田政権が懸念するように、インバウンドの再開は感染拡大リスクと背中合わせでもある。政府は旅行・宿泊業者向けに感染者が出た場合などのガイドラインを策定するため、少人数の外国人観光客を受け入れる実証実験をすでに実施。今月24日からツアー参加者が到着している。30日には参加者1人の感染が大分県で確認され、同行者3人も別途確保したホテルで待機、ツアーを中止した。

野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、「現状からみると感染リスクはまだあるが、重症化リスクもあまり大きくないのなら、緩和を続けていくことが必要」と指摘する。水際対策緩和による6月の追加経済効果は5月比で年換算8.1兆円と、木内氏は試算する。

四方敬之内閣広報官は20日、外国の報道機関向けに説明会を開き、「観光業界からはもっと外国人観光客を受け入れようという声が上がっている」と語った。その上で「感染者数の状況と規制緩和のバランスを考える必要がある」と述べた。

(新田裕貴、白木真紀、Rocky Swift 編集:久保信博)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・コロナ感染で男性器の「サイズが縮小」との報告が相次ぐ、「一生このまま」と医師
・新型コロナが重症化してしまう人に不足していた「ビタミン」の正体
・日本のコロナ療養が羨ましい!無料で大量の食料支援に感動の声
・コーギー犬をバールで殺害 中国当局がコロナ対策で...批判噴出


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

10月全国消費者物価(除く生鮮)は前年比+2.3%

ワールド

ノルウェーGDP、第3四半期は前期比+0.5% 予

ビジネス

日産、タイ従業員1000人を削減・配置転換 生産集

ビジネス

ビットコインが10万ドルに迫る、トランプ次期米政権
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中