訪日観光客受け入れ、ゆっくりと再開 入り混じる期待と不安
風向きが変わったのは4月下旬からの大型連休。外遊した首相らが訪問先で「開国」を迫られたことが背景の1つにあると、同役員は解説する。3年ぶりに行動制限のなかった連休明けに感染者が急増しなかったことも要因の1つで、「これなら(外国人)観光客を入れても世論は納得してくれるのでないかと政府も判断したのだと思う」と、別の観光会社の幹部は話す。
コロナ以前に戻るのは1年か2年先
国内各地でホテルを運営するリソルには、海外旅行に行けない日本人からの予約のほか、代理店を通じてドイツやフランスなど欧州から団体ツアーの仮押さえや問い合わせが入ってきている。それでも1日14万人が入国していたころに比べれば、上限2万人では即効性のある効果が見込めない。
影山秀明ホテル事業部長は、「コロナ以前のように、ホテルの前にバスが着いてどんどん団体が入ってくるのは1年か2年くらい先」と予想する。「インバウンドのお客様が絶対に必要。ホテルもレストランも観光業もインバウンドのお客様が来なかったら成り立たない」と語り、「海外並みに(国境を)開けてほしい」と要望する。同社は東京五輪前に4カ所でホテルを新設。インバウンド需要の増加を期待したが、無観客開催が決まり空振りに終わった。
一方、ANAホールディングス幹部は、緩和が段階的、限定的でも「富裕層向けのカスタマイズ旅行プランであれば、ウィズコロナ時代の観光として新たなビジネスになる」と期待を寄せる。同社を含めた複数の企業と地方自治体は4月19日から、少人数でも消費額単価の高い富裕層を対象とした旅行サービスの実証事業を始めている。
岸田政権が懸念するように、インバウンドの再開は感染拡大リスクと背中合わせでもある。政府は旅行・宿泊業者向けに感染者が出た場合などのガイドラインを策定するため、少人数の外国人観光客を受け入れる実証実験をすでに実施。今月24日からツアー参加者が到着している。30日には参加者1人の感染が大分県で確認され、同行者3人も別途確保したホテルで待機、ツアーを中止した。
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、「現状からみると感染リスクはまだあるが、重症化リスクもあまり大きくないのなら、緩和を続けていくことが必要」と指摘する。水際対策緩和による6月の追加経済効果は5月比で年換算8.1兆円と、木内氏は試算する。
四方敬之内閣広報官は20日、外国の報道機関向けに説明会を開き、「観光業界からはもっと外国人観光客を受け入れようという声が上がっている」と語った。その上で「感染者数の状況と規制緩和のバランスを考える必要がある」と述べた。
(新田裕貴、白木真紀、Rocky Swift 編集:久保信博)
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