最新記事

鉄道

中国鉄道メーカー、欧州で「車両販売キャンセル」の衝撃 2年経っても運行認可出ず

2022年5月22日(日)11時04分
橋爪智之(欧州鉄道フォトライター) *東洋経済オンラインからの転載
中国中車(CRRC)製の電車「シリウス」

チェコの鉄道会社レオ・エクスプレスが購入契約を解消したと報じられた、中国中車(CRRC)製の電車「シリウス」(撮影:橋爪智之)

チェコの民間鉄道会社レオ・エクスプレスが、購入契約を結んでいた中国中車(CRRC)製の新型電車「シリウス」3編成の契約を解消したと、チェコの情報サイト「Zdopravy.cz」が4月25日に報じた。同サイトは、複数の情報筋から契約破棄に関する情報を入手したとしており、その1つはレオ・エクスプレスからのものだとしている。

レオ・エクスプレスのスポークスマン、エミール・セドラジーク氏は同サイトの取材に対し、「契約上の取り決めにより、レオ・エクスプレスとCRRCの機密関係や進行中の交渉についてコメントすることはできません」と返答したが、契約終了について否定はしていない。契約は、すでに製造された3編成分の受け取り拒否はもちろんのこと、30編成分の追加発注オプションも含め、すべて破棄される見込みのようだ。

2年経っても認可を得られず

新型車両「シリウス」は、ヨーロッパにおける運行認可を取得するため、チェコのVUZヴェリム試験場で2年以上前の2019年9月からテストが続けられている。レオ・エクスプレスは当初、「新型車は2020年の春~夏頃から運行を開始する予定だ」と述べていたが、いまだに運行認可を取得できていない。

「シリウス」は、最高速度こそ現有車両のスイス・シュタドラー製FLIRTと同じ時速160kmであるが、直流3kV専用車のFLIRTと異なり、交流25kV・50Hzにも対応した複電圧車で、直流と交流区間が混在するチェコ国内の運用範囲拡大、および国際ルートの拡充を目論んでいた。また、中国メーカー製ではあるが、全パーツの5分の1はチェコ製で、信号システムなど主要部品もチェコ製を採用していた。

アルミ製車体・連接構造の「シリウス」は全長111.2m。現有車両より若干長いことからプラハ中央駅のレオ・エクスプレス専用ホームは長さが足りず、出発信号機の閉塞区間にも干渉してしまう問題があったが、対応工事を実施し完了していた。すでに製造された3編成のうち、2編成がチェコのヴェリム試験場へ送られていたが、契約解消後も当面はヴェリムに残るとされている。

契約破棄となると、両社とも今後の計画を見直す必要に迫られることになる。まず、車両を発注したレオ・エクスプレスは、この新型車両の導入に合わせて運行本数の増大や運行区間の拡大を予定していたが、これらの計画はすべていったん白紙撤回することになる。

レオの株主にはスペインメーカー

気になるのは、レオ・エクスプレスの株式の55%を保有するのはスペイン資本で、その一部にはスペインの鉄道車両メーカー大手のCAF社が絡んでいる点だ。具体的には、スペインの鉄道会社Renfeが49.9%の株式を保有し、5%はスウェーデンに拠点を置くEuroMaint Gruppe(ユーロメイント)という会社が保有しているが、この会社は2019年にCAFが買収し、同社の100%子会社となっている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

再送-EQT、日本の不動産部門責任者にKJRM幹部

ビジネス

独プラント・設備受注、2月は前年比+8% 予想外の

ビジネス

イオン、米国産と国産のブレンド米を販売へ 10日ご

ワールド

中国、EU産ブランデーの反ダンピング調査を再延長
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中