ビットコインが定着するか崩壊するか、運命が決まる時は間もなく来る
TOO BIG TO FAIL?
最初にビットコインを受け入れたのは、中央集権的な政府に強い不信感を抱くクリプトアナーキスト(暗号自由主義者)や自由意思論者(リバタリアン)、シリコンバレーの理想主義的なエンジニアたちだった。
違法行為に手を染めようとする勢力にとっても、匿名で簡単に送金できるビットコインの魅力は大きい。実際、多くのアメリカ人が初めてビットコインの存在を知ったのは、FBIが13年に違法薬物などのオンライン闇市場「シルクロード」を摘発したときだった。
シルクロードの摘発から程なく、ノボグラッツは思いがけず、ウォール街のビットコイン強気派の代表格と見なされるようになった。当時は、550億ドルの資金を動かすフォートレス・インベストメント・グループのマクロファンド共同最高投資責任者を務めていた。
あるパネルディスカッションに参加したときのこと。聴衆から投資について質問があった。ノボグラッツはこのしばらく前に、約300万ドルの個人資金でビットコインを購入していた。そのとき、相場は1BTC=100ドルに届いていなかった。
この質疑応答でノボグラッツは、ビットコインが1000ドルまで上昇するとの予測を示した。根拠として挙げたのは、中国人が好んでいるように見えること、クリプトアナーキストたちが前のめりになっていること、そして金融当局への不信感が強まっていて、ハイパーインフレを恐れる人が増えていることなどだった。
13年10月、フィナンシャル・タイムズ紙に「トップクラスのヘッジファンドマネジャー、ビットコインを支持」という記事が掲載された。ノボグラッツのことだ。たちまち、テレビ番組の出演依頼や講演依頼が大量に舞い込んできた。それだけ当時の主流派メディアや金融業界では、ノボグラッツのような考え方が珍しかったということだ。
その後、ビットコインの価格が1000ドルに上昇して、ノボグラッツの保有分の価値は300万ドルから3000万ドルに膨らんだ。このときノボグラッツは、一部を処分してプライベートジェットを買おうかと本気で迷ったが、フォートレスの仲間に説得されてやめたという。
やがてフォートレスの経営が悪化したため、ノボグラッツは15年に会社をやめて、フォートレスの持ち株を処分した。おかげでカネはたっぷりあるが、金融業界のメインストリームには相手にされない失業者になってしまった。そこでノボグラッツは、プリンストン大学時代の友達で、仮想通貨イーサリアム・プロジェクトを率いるジョセフ・ルービンに連絡を取ってみることにした。
ちょうどその頃、ルービンはイーサリアムのアプリを開発するコンセンシスという会社を立ち上げたところだった。ブルックリンにあるコンセンシスのオフィスを訪ねたノボグラッツは、「あれが大きな転機になった」と、振り返る。「『なんてこった、これは単なる業界じゃない。革命だ』と確信した」