ビットコインが定着するか崩壊するか、運命が決まる時は間もなく来る
TOO BIG TO FAIL?
そうしたなかで、ここにきて電気自動車(EV)大手テスラのイーロン・マスクCEO、世界最大規模の資産運用会社ブラックロック、金融大手のゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーがビットコインの取引や投資を進める計画を明らかにした。クレジットカード大手のビザとマスターカードも、決済ネットワークに仮想通貨を加える方針だ。
その半面、慎重な見方をする専門家も少なくない。ウォーレン・バフェット率いる投資会社バークシャー・ハサウェイのチャーリー・マンガー副会長やジャネット・イエレン米財務長官は、ビットコインの暴落が金融システムに及ぼす悪影響に警鐘を鳴らす。相場が暴落すれば、バブルに踊った一般投資家たちが一瞬で莫大な資産を失いかねない。
懸念はほかにもある。各国当局のコントロールが及ばない仮想通貨が存在感を増せば、世界の金融秩序が混乱したり、金融政策によって経済を活性化させることが今までよりはるかに難しくなったりしかねない。
仮想通貨の普及は、金融の未来に大きな影響を及ぼす可能性があるのだ。そこでアメリカの規制当局は仮想通貨を販売する企業に対して厳格な情報開示義務を課すことを提案し、中国政府は独自のデジタル通貨の大規模実証実験を開始している。インド政府は仮想通貨の保有を刑事罰の対象にする方針だと報じられている。
今さら冷や水を浴びせようとしても手遅れだと、ノボグラッツなどの推進派は主張する。「これまで仮想通貨の相場を押し上げてきたのは主に若い世代だが」と、ノボグラッツは言う。「これからは世界の富がもっと本格的に流れ込んでくる」
ビットコインは「金融の主流に定着するか、投機バブルがはじけるか」の岐路にあると、金融大手シティグループがまとめたリポートは指摘している。「今後しばらくの展開がビットコインの運命を決する可能性が高い」。つまり2021年は、ビットコインの13年の歴史で最も重要な1年になりそうだ。
インフレ懸念が追い風に
素性不明のコンピューターエンジニア、サトシ・ナカモトがビットコインのコードを初めて発表したのは09年1月9日のこと。このデジタル通貨は、まさに現在のような経済状況を予見して生み出されたと言っても過言ではない。
当時、世界の国々は08年の金融危機を受けて、今日と同じように大々的な経済対策を実行していた。市場に大量の資金を供給し、金利を押し下げ、莫大な予算を拠出した。ナカモトの新しいデジタル通貨は、こうした政策の先に待っている(と多くの人が予想する)インフレから個人の資産を守る手段として設計されたものだった。特定の政府や経済、通貨に左右されずに、安全に資産を保管できる場をつくろうとしたのだ。