最新記事

ブレグジット

英政府、離脱協定の一部を無効化する法案提出 EU「法案は国際法に反する」と警告

2020年9月10日(木)10時38分

英政府は9月9日、欧州連合(EU)離脱協定の一部を無効化する法案を議会に提出した。国際法違反につながる可能性があり、EUは英国が離脱協定の修正を試みれば英国との自由貿易協定(FTA)は実現しないと警告、交渉を巡る混迷が一段と深まった。ベルリンで昨年4月撮影(2020年 ロイター/Hannibal Hanschke)

英政府は9日、欧州連合(EU)離脱協定の一部を無効化する法案を議会に提出した。国際法違反につながる可能性があり、EUは英国が離脱協定の修正を試みれば英国との自由貿易協定(FTA)は実現しないと警告、交渉を巡る混迷が一段と深まった。

英政府が提出した「国内市場法案」は、今年1月に発効したEU離脱協定の一部条項を実質的に無効化する内容。ジョンソン首相は議会で、離脱協定の北アイルランドに関する条項を巡る「極端、もしくは不合理な解釈から英国を守る法的な安全網」と説明した。

欧州委員会のフォンデアライエン委員長は「離脱協定に違反する意図を示す英政府の発表を深く懸念している」とし、「この法案は国際法に反するもので、信頼の喪失につながる。「パクタ・ズント・セルヴァンダ(ラテン語で『合意は守られなければならない』の意味)」とツイッターに投稿した。

この日はEUの首席交渉官がロンドン入りし、通商協定を巡る協議が再開。これに合わせるように国内法案を発表することで、ジョンソン首相はEUに揺さぶりをかけようとしているとの見方も出ている。

ただEU関係筋はロイターに対し、交渉は打ち切られないと表明。EU外交官は「雰囲気は緊迫しているが、協議は継続される。EUは交渉の場から立ち去ることはしない」とし、「バルニエ首席交渉官はEUが合意を望んでいるという姿勢を示す。これにより、事態の混乱を招いたのは英国だということになる」と述べた。

法案は今後、英議会の上下両院で討議される。

法案が可決された場合、北アイルランドに関するプロトコル(議定書)の一部について、輸出申告の形式や他の手続きを修正することで無効にする権限が閣僚らに与えられる。

このほか「離脱協定のその他の条項」や「EU法や国際法」の無効化につながる可能性もある。

法案は、英国は北アイルランドと国家補助に関する条項などを「適用しない」可能性があるとしている。英政府は国際的なハイテク企業の育成などに国家補助が不可欠だとみている。

離脱協定では北アイルランドとアイルランド間の国境を越えた自由な貿易が認められるが、EUは北アイルランドと英国本土間を通過する物品に関しては検問が必要になる場合があるとしている。しかし、ジョンソン首相はそうした物品に対する輸出申告や関税の義務付けを排除している。

アイルランドのマーティン首相はジョンソン首相に対し、率直に懸念を表明した。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2020トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・ロシア開発のコロナワクチン「スプートニクV」、ウイルスの有害な変異促す危険性
・巨大クルーズ船の密室で横行するレイプ
・パンデミック後には大規模な騒乱が起こる
・ハチに舌を刺された男性、自分の舌で窒息死


20200915issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

9月15日号(9月8日発売)は「米大統領選2020:トランプの勝算 バイデンの誤算」特集。勝敗を分けるポイントは何か。コロナ、BLM、浮動票......でトランプの再選確率を探る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中