暗雲漂うドル円相場の行方──米利下げ、対中関税引き上げの影響は?
なお、直近の動きに関して、7月31日のFOMCは利下げ観測の後退を促したことで円安ドル高材料となった。FOMCでは0.25%の利下げが決定されたものの、市場では完全に織り込み済みであったことに加え、今後の追加利下げを占ううえで注目された議長会見において、パウエル議長の発言内容1が想定ほど利下げに前向きではないと受け止められたためだ。ただし、利下げ観測後退に伴って、世界の株式市場がややリスクオフ地合いとなったことが、円安の進行を抑制した。
一方で、翌1日のトランプ大統領による対中関税第4弾発動の表明は強い円高ドル安材料になった。世界的な株安を通じてリスクオフの円買いを発生させたうえ、米経済への先行き懸念を通じて利下げ観測を大きく復活させたためだ。実際、先物市場が織り込む来年4月FOMCにかけての利下げ回数(7月末の利下げ分を含む)は、FOMC前の7月30日の3.25回に対し、FOMC後の31日には3.00回に減少したが、1日には3.73回にまで急増している。
このように、昨年終盤以降直近にかけてのドル円レートは、米利下げ観測と米中通商摩擦に大きく左右されてきた。
今後のポイント:予防的利下げに留まるか
従って、今後のドル円相場を考えるうえでも、米(追加)利下げと米中摩擦の動向がカギになると考えられる。
まず、米中摩擦については、しばらく激化の方向に向う可能性が高い。米国が追加関税を表明したことで中国が態度を軟化し、譲歩に向うとは思えない。むしろ、中国政府がメンツを守るために反発し、米国に対する報復的な対抗措置を打ち出す可能性がある。市場では、米中摩擦の動向やその影響を巡って、たびたびリスクオフ地合いが強まりそうだ。
そして、米中摩擦の高まりは米利下げ観測の上昇にも繋がる。FRBも景気下振れリスクの高まりを受けて秋に「予防的利下げ第2弾」を実施するだろう。従って、当面秋にかけては米中摩擦への警戒に伴うリスクオフの円買い圧力と米利下げ観測の高まりによるドル売り圧力が生じやすい。また、今後は英国のEU離脱問題や米国とイランの対立、米欧通商摩擦などの下振れリスクに伴う円高圧力にも注意が必要になる。
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1 「今回の利下げは調整であり、長期的な利下げサイクルの始まりではない」との主旨の発言があった(その後、「利下げは1回だけなどとは言っていない」とフォローする発言もあり)。