最新記事

中国経済

米中貿易戦争、中国の中小メーカーを「脱中国」へ走らせる

2019年6月29日(土)12時33分

中国の製造業者の間では近年、国内の経営コスト上昇から生産拠点をベトナムやカンボジアなど東南アジア諸国に移す動きが起き始めていたが、米中通商紛争でこうした流れが勢いを増している。写真はヤンゴンにある雅科達旅遊用品の縫製工場で11日撮影(2019年 ロイター/Ann Wang)

中国の製造業者の間では近年、国内の経営コスト上昇から生産拠点をベトナムやカンボジアなど東南アジア諸国に移す動きが起き始めていたが、米中通商紛争でこうした流れが勢いを増している。とりわけ価格の安いローテク製品メーカーで拠点の海外移転が目立つ。

防弾チョッキやライフル銃用バッグなどを製造する広州市の雅科達旅遊用品の経営者は、数年前に一部製造部門を東南アジアに移すことを考えたが見送っていた。しかしトランプ米大統領が昨年9月に中国からの輸入品2000億ドル相当に追加関税を課すとこれが決定打となり、米顧客向け防弾チョッキをミャンマーで製造することを決断した。

雅科達旅遊用品は利益の半分以上を米国からの受注が占める。この経営者はミャンマーへの移転に満足しており、「まさに災いが福に転じた」と述べた。

雅科達旅遊用品のミャンマー工場は昨年12月に生産を開始。工場長によると、製品は米国と欧州に輸出され、従業員600人は常に注文の消化に追われているという。

一方、同社の珠江デルタにある従業員220人の広州工場は、主に中東、アフリカ、欧州向けの製品を生産している。

ミャンマーはイスラム教徒少数民族ロヒンギャの迫害で国際的に非難を浴びているが、一部の中国企業が安価で豊富な労働力に引かれて移転先に選んでいる。

ミャンマー当局のデータによると、今年4月までの1年間に承認された中国関連プロジェクトは5億8500万ドル増加。中国からの資本流入が工業セクターの発展を後押ししている。

中国・山東省を拠点とするタイヤメーカー、ACMXグループも米中通商紛争の発生を受けて、生産の一部を海外に移し、2年前にベトナム、タイ、マレーシアでの生産に踏み切った。労働力や原材料のコストが低く、米国の反ダンピング関税を避けられるとの理由だった。

経営幹部によると、米中通商紛争が激化したため、同社は海外生産比率を20%から50%に引き上げる計画。

雅科達旅遊用品やACMXに見られる生産拠点の海外移転の動きからは、米中通商紛争で中国メーカーが守勢に立たされ、顧客層の多様化や国内販売の増加、第三国での生産拡大などを迫られている様子が読み取れる。

こうした経営戦略を実行に移すには時間と費用がかかるが、利ざやが薄い小規模な輸出業者は必ずしもこうした負担を賄えない。一部の小規模メーカーにとってはベトナムやフィリピンでさえ高嶺の花だ。

中国商務省・国際問貿易合作研究所の梁明所長は「実際に海外に拠点を移している企業はほとんどない。海外に拠点を移すと、米中が合意すれば損失を被るリスクがある」と述べ、国内メーカーによる海外移転に否定的な見方を示した。

貿易面で圧力が高まれば、中国政府は今後数カ月以内に成長てこ入れのために緩和策を一段と強化するとアナリストはみている。また投資家は中国政府が人民元安をどこまで容認するかにも注目している。

雅科達旅遊用品のミャンマー工場の現場責任者は、ミャンマーの労働者の質が中国に比べて劣り、雨季には道路が冠水して、毎日8─9時間の停電が起きると嘆き、「米中通商紛争がなければミャンマーに拠点を移すことはなかった」と述べた。

(Joyce Zhou記者、Ann Wang記者)

[広州(中国)/ヤンゴン ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 独占取材カンボジア国際詐欺
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月29日号(4月22日発売)は「独占取材 カンボジア国際詐欺」特集。タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アメリカン航空、今年の業績見通しを撤回 関税などで

ビジネス

日産の前期、最大の最終赤字7500億円で無配転落 

ビジネス

FRBの独立性強化に期待=共和党の下院作業部会トッ

ビジネス

現代自、関税対策チーム設置 メキシコ生産の一部を米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 10
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中