最新記事

日本経済

2年ぶりGDPマイナス成長、デフレ心理の根強さ明確に アベノミクス「力不足」

2018年5月16日(水)16時15分


予想超えたデフレ心理の強さ

SMBC日興証券・チーフマーケットエコノミストの丸山義正氏も、好循環・デフレ脱却に至らなかった最大の要因は、賃金にあるとみている。


しかし、その背景には生産性の問題よりも「安倍晋三首相と黒田東彦日銀総裁が想像した以上のデフレ心理の強さがある」と分析する。


企業が高収益となれば、自然の流れのように家計に恩恵が波及すると予想されたが、全く波及しなかった。


「官制春闘」と批判されながらも、安倍首相が企業に3%の賃上げを求め、賃上げの幅拡大を目差した減税対応を展開しても、今年の春闘の結果を見れば「さほどの効果はなかった」と丸山氏は指摘する。


今回の1─3月期のマイナス成長は、天候要因や直近の高成長の反動といった面が現れたに過ぎず、再びプラス成長に戻るとの見方が民間エコノミストの間では多い。


内閣府幹部は、物価調整後の実質雇用者所得が前期比0.7%増と高めの伸びを示していることを根拠に「消費の基調が崩れたわけではない」と見ている。


「劇薬」が必要との指摘も

だが、そうした見方とは裏腹に、デフレ脱却や経済好循環の達成の日が近づいているとの見方は、むしろ政府内では後退しているようだ。


政府が重視する「生鮮食品とエネルギーを除くCPI」(コアコアCPI)は、今年3月時点で前年比0.5%上昇にとどまり、1%にも届いていない。


また、日銀展望リポートでは、2%物価目標の達成時期に関する文言が削除され、黒田東彦総裁自身も、国会などでデフレ心理の根強さが想像以上に強かったとの見解を率直に示している。


アベノミクスが本格的に始まった2013年以降、潜在成長率を上回る成長が続いてきたものの、企業部門の活性化にとどまり、個人消費に波及しない構図が存在する。既存の政策パッケージでは、この構図を変えるには「力不足」ということもわかってきた。


だが、決め手となる賃上げとデフレ心理解消に有効な特効薬は、まだ見つかっていない。SMBC日興証券の丸山氏は「どこかで高めの賃上げを義務付けるなど、劇薬的な政策で突破口を切り開くことが必要かもしれない」と指摘する。


(中川泉 編集:田巻一彦)

[東京 16日 ロイター]


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2018トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

20250401issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月1日号(3月25日発売)は「まだ世界が知らない 小さなSDGs」特集。トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国最大野党の李代表に逆転無罪判決、大統領選出馬に

ビジネス

独VWの筆頭株主ポルシェSE、投資先の多様化を検討

ビジネス

日産、25年度に新型EV「リーフ」投入 クロスオー

ビジネス

通商政策など不確実性高い、賃金・物価の好循環「ステ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 4
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 7
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 8
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 9
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 10
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中