最新記事

日本企業

飽くなき挑戦を続けるマツダ 「ロータリー」 はトヨタの次世代EVに採用

2018年4月4日(水)08時00分
森川郁子 ※東洋経済オンラインより転載

マツダのレーシングカー「マツダ787B」。マツダは世界最高峰の耐久レース「ル・マン24時間レース」にロータリーエンジンで過去13回挑戦。1991年にこのマシンで初の総合優勝を果たした(東洋経済オンライン編集部撮影)

2012年に生産が終了したマツダのロータリーエンジンが再び脚光を浴びている。今年1月、トヨタ自動車が発表した次世代の電気自動車(EV)「e-Palette Concept(イー・パレット・コンセプト)」に、ロータリーエンジンがレンジエクステンダーとして搭載されることになったからだ。

この装置はいわば発電用エンジン。ガソリンを使って発電し、バッテリーを充電することで、EVの弱点である航続距離を伸ばす。マツダとトヨタは2017年に資本提携し、EVの共同開発を進める。マツダの魂、ロータリーエンジンが誕生から半世紀を経て、電動車両の心臓部として復活することになる。

マツダだけが量産できたロータリーエンジン

newsweek_02.jpg

マツダのロータリーエンジンの内部構造。おにぎり型のローターが特徴的だ(編集部撮影)

「一隅(いちぐう)を照らす、此則ち(これすなわち)国宝なり」と書かれた色紙が、マツダの社長室に引き継がれているという。「それぞれの立場で努力をすることは、何物にも代えがたい国の宝」という意味があり、日本天台宗の開祖・最澄の言葉だ。1950〜1960年代に、3輪トラックから乗用車への事業拡大を成し遂げた3代目社長、松田恒次氏が座右の銘としていた。「これがマツダだと思います」と、小飼雅道社長も語る。

この言葉を実際に体現したのが、昨年12月に95歳で亡くなった山本健一元社長だ。ロータリーエンジンの開発を指揮し、1967年に量産化を成功させた立役者で、「ロータリーエンジンの父」と呼ばれる。このエンジンは、おにぎり型のローターの回転運動だけで、パワーを生み出す。薄くてコンパクトだが、出力が高く、まるでモーターのような感覚で滑らかなパワーを出すことができる。ただ、耐久性や燃費など課題が多く、世界中の自動車メーカーの中で4輪向けに大規模な量産ができたのはマツダだけだ。

newsweek_02.jpg

ロータリーエンジン研究部の初代部長を務めた山本健一氏。1991年のル・マン優勝後の祝賀会で(記者撮影)

1963年、若手技術者が極秘に集められて、マツダにロータリーエンジン研究部が発足。初代部長として研究部を率いたのが山本氏だ。難題に挑む47人の技術者は、「赤穂浪士」になぞられ、「ロータリー四十七士」として伝説が今も語り継がれる。

開発に着手したマツダは独NSU社と技術提携を結ぶ。だが、世界で誰も実現したことのない技術だけに、課題は山積していた。それでも、マツダには絶対に引けない理由があった。当時の通商産業省が、「日本の自動車メーカーはトヨタ・日産で十分」との見解を示し、自動車産業界の再編に否定的だった。ここで独自技術の開発に成功しなければ、自動車メーカーとして認めてもらえない――。まさに社運を懸けた開発だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アメリカン航空、今年の業績見通しを撤回 関税などで

ビジネス

日産の前期、最大の最終赤字7500億円で無配転落 

ビジネス

FRBの独立性強化に期待=共和党の下院作業部会トッ

ビジネス

現代自、関税対策チーム設置 メキシコ生産の一部を米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 2
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学を攻撃する」エール大の著名教授が国外脱出を決めた理由
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 8
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「iPhone利用者」の割合が高い国…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 5
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 6
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 7
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中