最新記事

新興国

インド経済失速の原因と処方箋

成長は鈍り、通貨安やインフレ悪化が止まらないインド経済の気になる見通し

2013年9月9日(月)12時46分

新興国の夢 インドの台頭は幻想に終わったのか Adnan Abidi-Reuters

 数年前まで、インド経済の台頭は必然とみられていた。貧しいからこそ伸びしろが大きく、若い労働力が牽引役となり、国民全体が豊かになっていくのだと。

 これに異議を唱えたのが、モルガン・スタンレーのディレクター、ルチル・シャルマだ。彼は昨年の著書『ブレイクアウト・ネーションズ』(邦訳・早川書房)で、若年人口の割合が高いという強みを生かせるのは、若者を訓練・教育して雇用を創出できればの話だと警告した。

 今から思えば、先見の明があったといえる。インドの経済成長率は5%を切り、インフレ率は上昇。続くルピー安で、さらなる物価上昇や経常赤字拡大が懸念される。インド経済失速の原因と解決策について、元本誌記者のジェーソン・オーバードーフがシャルマに聞いた。

*****

――現状はどれくらい深刻か。

 静観中だ。国民1人当たりのGDPは1500ドルだから成長の余地はある。例えば生活必需品などの消費力はそれほど衰えないだろう。

――ルピー安は懸念すべきか。

 輸出は増えるだろうが、突然暴落すれば、外貨建ての借金があるインド企業は苦しくなる。

――インドが犯した間違いとは。

 インドも世界的な過剰流動性の受け皿となった新興国の1つにすぎなかったのに、この10年の好況を自分たちの手柄と勘違いしたことだ。しかも棚ぼた式の成長があるうちに、生産性向上のための改革を行うこともなかった。貯蓄率や投資率が高かったので油断してしまった。

――シン首相の失敗は何か。

 よく政治力のなさが問題視されるが、むしろ経済の見通しを誤った。インフレは繁栄の証しだとか、貯蓄率は30%超で投資率は35%超だから9%は成長するはずだとか、机上の空論を語っていた。だから経常赤字がGDPの4〜5%という危険水域を超える状況に陥った。

――経済改革が進んでいない。問題は改革の内容そのものか、改革を実行に移せないことか。

 両方だ。規則の変更が多過ぎるし、労働市場の改革も必要だ。燃料価格は補助金に頼るより、市場に任せるべきだ。財政規律も重要だ。政府は財政赤字をGDPの3%以内に抑えるというルールを破ってしまった。

――軌道修正の可能性は?

 小手先の節約や関税引き上げでは解決しない。持続可能な成長のためには、トップダウンの改革ではなく、州政府に権限も予算も移譲すべきだ。

From GlobalPost.com特約

[2013年9月10日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中