最新記事

ソニー再生

復活の鍵はアマゾン型 「サービス製造業」

2012年8月8日(水)15時24分
ファラ・ワーナー(本誌外国語版編集ディレクター)

 ネスレを変身させたのも同じアイデアだ。ビジネス誌ファスト・カンパニーによれば、現在の同社はヨーロッパで最も多くのコーヒーを売っている。

 コーヒー業界では長年、コーヒーメーカーの製造業者とコーヒー豆の販売業者は別々だった。ネスレはこの2つを一体化させ、しかも両方の分野で他社の上を行くことで、これまでにない体験を消費者に提供した。特殊ブレンドのコーヒー豆が入ったカプセルを宅配して、誰でも手軽に1杯分のエスプレッソを作れるようにしたのだ。

 そのために開発されたのが、おしゃれなデザインで使いやすいコーヒーメーカー「ネスプレッソ」だった。だがネスレはそこにとどまらず、ネスプレッソ専用カプセルコーヒーの人気を高めようとした。同社はネスプレッソの専門店とオンラインのネスプレッソクラブを立ち上げ、会員向けのスペシャルブレンドを期間限定で販売している。

過去と決別したIBM

 アマゾンとネスレは純粋なメーカーではないが、IBMは20世紀を代表するモノづくり企業だ。かつてのビジネスの主力は、デジタル時代の幕開けに貢献した大型メインフレーム・コンピューター。80年代からデスクトップマシンに軸足を移した。その後もパソコン事業を続けることは可能だったが、安価な外国製品の登場でパソコンの「コモディティー化」が進み、利益率は低下の一途をたどった。

 そこで2000年代半ば、IBMは劇的な転換に踏み切る。04年、パソコン部門を中国メーカーのレノボに売却。ソフトウエアとシステム、外部記憶装置のストレージ・サービスにビジネス資源を集中させた。この分野で必要とされるコア事業は、モノづくりではない。代わりにIBMは「手持ちの武器」を使った。ノーベル賞受賞者を含む超一流の研究スタッフだ。

 私は07年、研究陣と営業・販売チームが共同で顧客企業の問題に対処するIBMの手法をファスト・カンパニー誌で検証したことがある。IBMは顧客サービスとして「頭脳」を売っているのだ。ソフトウエアやシステムは、アイデアを実現するための道具にすぎない。

 注目すべきなのは、頭脳や創造性は簡単に外注できないという点だ。IBMの業績を見ればよく分かる。今年のフォーチュン上位500社リストによると、昨年の売り上げは1000億ドルを超え、史上最高水準だった。

 IBMの決断は、ソニーにとっても参考になる。彼らは過去の得意分野へのこだわりを捨て、不採算部門を躊躇なく切り捨てた。重要なのは、アップルと同じ土俵で勝負しなかったことだ。

 IBMなら、アップル流のビジネスも十分に可能だったはずだ。だが彼らは代わりに自社の内部に目を向け、将来の鍵となる存在を探した。
IBMの場合、答えは「社内の人材」だった。過去に目を向け、社内が最も創造性にあふれていた時期と迷走の原因を見極めることは、ソニーにとっても重要かもしれない。

 今のソニーが最初にやるべきなのは、従来の自己イメージと決別し、今後のビジョンを真剣に考えることだろう。

[2012年5月30日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国、企業に緊急支援措置へ 米関税受け大統領代行が

ワールド

日本の働き掛け奏功せず、米が相互関税24% 安倍元

ワールド

ロシアが企業ビル爆撃、4人死亡 ゼレンスキー氏出身

ビジネス

米関税24%の衝撃、日本株一時1600円超安 市場
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    アメリカで「最古の銃」発見...いったい誰が何のため…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中