優雅で頑固な地中海文化がギリシャを殺す
パパンドレウ首相は、国家財政の粉飾を暴き、緊縮を呼びかけるアングロサクソン的教養の持ち主。人生を楽しみたい国民とのギャップはあまりに大きい
アメリカ人? 祖父から3代続いた首相の家だが、外国暮らしが長いパパンドレウの言葉はなかなかギリシャ人に届かない
ギリシャのヨルゴス・パパンドレウ首相を歓迎するカクテルパーティーが先週、ニューヨークのピエールホテルで開かれる予定だった。会場の天井には、ニューヨーク社交界のエリートたちと古代の神々が歓談する絵がある。一見すると立体的に見えるだまし絵だ。
1人1000ドルの晩餐と1週間のアメリカ滞在の幕開けにはふさわしいセッティングだった。ミネソタ州で生まれたパパンドレウは結局、アテネ人であると同じくらいアメリカ人なのだから。
パパンドレウはよく、全国民の改造をもくろんでおり専制的だと批判される。そしてギリシャ財政の破綻を防ぎ、欧州と世界を2度目の金融経済危機から救おうとするパパンドレウの尋常ならざる努力は、ピエールホテルの絵と同じ目くらましにすぎないと金融界から見なされている。
結局、パパンドレウはパーティーには来なかった。彼はニューヨークに向かう途中、ロンドンで急きょギリシャへの帰国を決め、国連やIMF(国際通貨基金)、米財務省との会談をキャンセルした。
帰国までして開いた緊急閣議で、ギリシャ政府は公共部門の人員削減を徐々に数万人上乗せすること、また年収5000ユーロ(約52万円)の低所得者世帯も含む幅広い層を対象に所得増税を行うことで合意した。
そのおかげで、喉から手が出るほど欲しかった80億ユーロの金融支援を得られるかもしれない。資金の出し手は、今はトロイカと呼ばれるIMFとEUと欧州中央銀行(ECB)だ。
それでも、パパンドレウに対して公共部門の雇用や手当、年金にもっと切り込めという圧力は続いている。それは、彼が率いる与党・全ギリシャ社会主義運動(PASOK)の支持基盤の中核に切り込むことと同じだ。
「浪費国家の習慣」と戦う
ギリシャの緊急閣議はこの世の終わりのような重い空気に包まれていた。デフォルト(債務不履行)は「避けられない運命だという雰囲気だった」と、閣僚の1人は言う。苦い薬も飲んだ。だが、別の政府高官が口にしたように「薬が患者を殺すこともある」。
パパンドレウはプレッシャーに強い。彼が14歳だった67年、ギリシャ軍が実権を掌握し、兵士がアテネの彼の自宅に元首相の父アンドレアス・パパンドレウを捜しに来たときのこと。兵士らはパパンドレウの頭に銃を突き付け隠れている父親に呼び掛けた。「アンドレアス、出て来なければ息子の頭を撃ち抜くぞ」
この事件は「パパンドレウにとって政治への洗礼になった」と、パパンドレウ家と付き合いがあるハーバード大学の経済学者リチャード・パーカーは言う。「パパンドレウは成長しながら、いったいどんな人物になりたいかについて大きな決断を下さなければならなかった」