最新記事

ビジネス

脳科学でマーケティングは進化する

2011年8月2日(火)13時06分

webbiz020811_2.jpg

脳波を計測することで消費者が潜在意識で求める商品を探る
©2011 NeuroFocus Nielsen All Rights Reserved.


――本書では男女の脳機能の違いを指摘しているが、男女の脳機能の違いはマーケティングでなぜ重要なのか?

 男女の脳は世界のどの民族でも違っている。最も重要な違いは、左脳と右脳をつなぐ脳梁の働きだ。女性の脳梁は活発に機能している。男性の脳梁は狭い通路のようなものだ。結果として女性は言語を簡単に解析できる。例えば記事を見た時に、女性は文章を読む。しかしもし写真が入っていると、男性は写真に目を奪われる。つまり女性は言葉に反応し、男性はイメージに反応する。

 また女性の脳は他者との社会的な関係に活発に反応するので、女性が1人で商品を楽しんでいるような広告は効果が薄い。友人や誰かと一緒に商品を楽しんでいる広告の方が効果が高い。

 最後に、男性はストレスを感じる状況を好むが、女性はそこから逃れたいと思う傾向が強い。「セールはまもなく終了します」と言われると、男性はそこにひかれるが、女性はむしろそのプレッシャーを避けたいと感じる。

――高齢者へのマーケティングで重要なことは?

 ポイントは2つある。高齢者はネガティブなメッセージを完全に無視する傾向がある。例えば銀行が「投資をしないと将来が大変」と広告で言うのと、「投資をすれば将来はハッピー」と言うのでは、後者の方が高齢者には効果がある。この僅かな違いが高齢者には大きな違いとなる。

 また高齢者の脳は、注意が散漫になることを抑制する機能が低下し、他のことに気を取られる傾向が強くなる。だから高齢者のマーケティングではできるだけシンプルにしなければならない。高齢の消費者をインタビューする場合は、ちょうど日本の禅のように1対1の状態にして気が散る要素を排除した方が良い。

――ニューロマーケティングはこれからどう発展するか?

 現在は多くのビジネススクールでニューロマーケティングを授業に取り入れている。これまでにニューロマーケティングを紹介した教科書は少ないので、本書はこの分野の教科書として使われるだろう。しかし我々は理論を構築する学者ではない。マーケティングの実践者だ。だから日本でもマーケティングの担当者、広告代理店、そしてビジネスを学ぶ学生がこの手法を実践し、その成果を我々に教えてもらいたい。この手法を成長させることが本書を執筆した動機でもある。

 ニューロマーケティングの概念は、あと5~6年で常識となり、その後は「ニューロデザイン」という段階に発展していくだろう。製品開発に脳科学を取り入れる手法だ。現在我々は様々なデジタル製品に囲まれているが、すべての機能を使いこなせる人はいない。ニューロマーケティングによって人間の脳機能に合致した製品開発が進まなければ、インターフェースがばらばらの多くのデジタル機器に囲まれて私たちは困ってしまうことになる。

 アップルが成功しているのは、製品に直感的なインターフェースを取り入れているからだ。iPhoneのメニューをプルダウンすると、最後まで行ったところで跳ね返ってくる。これは自然の力学を取り入れている。これは脳が予測できる動きで、その通りになると脳は喜ぶ。このように自然力学に従えば、脳はその商品を選択する。

――今後マーケティングはどう変わる?

 フェースブックをはじめとした「ソーシャル・オペレーティング・システム(SOS)」が、今後マーケティングの大革命を起こす。フェースブックを前にすると脳はこれまでとはまったく違った働きをする。SOSはこれまでのデジタル機器を遥かに凌駕する効果をもたらすことになる。なぜ人々がフェースブックに参加して、書き込むのか。友人と連絡を取るためと答えるかも知れないが、実際には違う。実は周囲に認められたいという気持ちを満たせるからだ。

 そのシステムを理解することが重要だ。なぜなら今日企業は、こうしたSOSを通じて自社のブランドを確立したいと考えている。今後SOSでどう企業が商品を認知させるか、そのプロセスで脳科学が大きな役割を果たすことになる。

 もう1つは、私が店に行って何か買おうとした時、モバイル端末などを使ってフェースブックに繋がり、友人たちとそこで議論することができるようになる。誰もが忙しい現代社会で友人を連れて買い物に行くことは難しいが、フェースブックを使うことでそれに近いことが可能になる。これが買い物を大きく変えることになる。

 フェースブックをはじめとするSOS、アマゾンなどを通じたネットショッピング、そして従来からの店舗に直接出向く買い物。こうしたすべての要素が融合した、非常に興味深い新しい世界が始まろうとしている。この新しい環境の中で、ニューロマーケティングを実践する企業が著しい成果をあげることができると確信している。

webbiz020811_3.jpg『マーケターの知らない「95%」
消費者の「買いたい!」を作り出す実践脳科学』
A・K・プラディープ 著
ニールセン ジャパン 監訳
仲 達志 訳
定価2100円
四六版並製/424ページ
阪急コミュニケーションズ刊(7月29日刊)
 
 
 
 
 
 

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イスラエル、ガザ巡る国連職員の中立性に疑義 幹

ビジネス

米アメックスがプラチナカード刷新で3500ドル追加

ビジネス

午前の日経平均は続伸、ハイテク株主導で最高値 一巡

ワールド

ウクライナ、ポーランド軍に対ドローン訓練実施へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中