脳科学でマーケティングは進化する
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――本書では男女の脳機能の違いを指摘しているが、男女の脳機能の違いはマーケティングでなぜ重要なのか?
男女の脳は世界のどの民族でも違っている。最も重要な違いは、左脳と右脳をつなぐ脳梁の働きだ。女性の脳梁は活発に機能している。男性の脳梁は狭い通路のようなものだ。結果として女性は言語を簡単に解析できる。例えば記事を見た時に、女性は文章を読む。しかしもし写真が入っていると、男性は写真に目を奪われる。つまり女性は言葉に反応し、男性はイメージに反応する。
また女性の脳は他者との社会的な関係に活発に反応するので、女性が1人で商品を楽しんでいるような広告は効果が薄い。友人や誰かと一緒に商品を楽しんでいる広告の方が効果が高い。
最後に、男性はストレスを感じる状況を好むが、女性はそこから逃れたいと思う傾向が強い。「セールはまもなく終了します」と言われると、男性はそこにひかれるが、女性はむしろそのプレッシャーを避けたいと感じる。
――高齢者へのマーケティングで重要なことは?
ポイントは2つある。高齢者はネガティブなメッセージを完全に無視する傾向がある。例えば銀行が「投資をしないと将来が大変」と広告で言うのと、「投資をすれば将来はハッピー」と言うのでは、後者の方が高齢者には効果がある。この僅かな違いが高齢者には大きな違いとなる。
また高齢者の脳は、注意が散漫になることを抑制する機能が低下し、他のことに気を取られる傾向が強くなる。だから高齢者のマーケティングではできるだけシンプルにしなければならない。高齢の消費者をインタビューする場合は、ちょうど日本の禅のように1対1の状態にして気が散る要素を排除した方が良い。
――ニューロマーケティングはこれからどう発展するか?
現在は多くのビジネススクールでニューロマーケティングを授業に取り入れている。これまでにニューロマーケティングを紹介した教科書は少ないので、本書はこの分野の教科書として使われるだろう。しかし我々は理論を構築する学者ではない。マーケティングの実践者だ。だから日本でもマーケティングの担当者、広告代理店、そしてビジネスを学ぶ学生がこの手法を実践し、その成果を我々に教えてもらいたい。この手法を成長させることが本書を執筆した動機でもある。
ニューロマーケティングの概念は、あと5~6年で常識となり、その後は「ニューロデザイン」という段階に発展していくだろう。製品開発に脳科学を取り入れる手法だ。現在我々は様々なデジタル製品に囲まれているが、すべての機能を使いこなせる人はいない。ニューロマーケティングによって人間の脳機能に合致した製品開発が進まなければ、インターフェースがばらばらの多くのデジタル機器に囲まれて私たちは困ってしまうことになる。
アップルが成功しているのは、製品に直感的なインターフェースを取り入れているからだ。iPhoneのメニューをプルダウンすると、最後まで行ったところで跳ね返ってくる。これは自然の力学を取り入れている。これは脳が予測できる動きで、その通りになると脳は喜ぶ。このように自然力学に従えば、脳はその商品を選択する。
――今後マーケティングはどう変わる?
フェースブックをはじめとした「ソーシャル・オペレーティング・システム(SOS)」が、今後マーケティングの大革命を起こす。フェースブックを前にすると脳はこれまでとはまったく違った働きをする。SOSはこれまでのデジタル機器を遥かに凌駕する効果をもたらすことになる。なぜ人々がフェースブックに参加して、書き込むのか。友人と連絡を取るためと答えるかも知れないが、実際には違う。実は周囲に認められたいという気持ちを満たせるからだ。
そのシステムを理解することが重要だ。なぜなら今日企業は、こうしたSOSを通じて自社のブランドを確立したいと考えている。今後SOSでどう企業が商品を認知させるか、そのプロセスで脳科学が大きな役割を果たすことになる。
もう1つは、私が店に行って何か買おうとした時、モバイル端末などを使ってフェースブックに繋がり、友人たちとそこで議論することができるようになる。誰もが忙しい現代社会で友人を連れて買い物に行くことは難しいが、フェースブックを使うことでそれに近いことが可能になる。これが買い物を大きく変えることになる。
フェースブックをはじめとするSOS、アマゾンなどを通じたネットショッピング、そして従来からの店舗に直接出向く買い物。こうしたすべての要素が融合した、非常に興味深い新しい世界が始まろうとしている。この新しい環境の中で、ニューロマーケティングを実践する企業が著しい成果をあげることができると確信している。
『マーケターの知らない「95%」
消費者の「買いたい!」を作り出す実践脳科学』
A・K・プラディープ 著
ニールセン ジャパン 監訳
仲 達志 訳
定価2100円
四六版並製/424ページ
阪急コミュニケーションズ刊(7月29日刊)