最新記事

ビジネス

脳科学でマーケティングは進化する

『マーケターの知らない「95%」 消費者の「買いたい!」を作り出す実践脳科学』の著者A・K・プラディープに聞いたマーケティングの新たな未来

2011年8月2日(火)13時06分

ニューロマーケティングの先駆者プラディープ氏

 消費者は潜在意識で何を求めているか、何を買いたがっているか、脳波を測定して本当のニーズを解明する――。そんな脳科学の手法を、製品開発からパッケージ、広告展開までの一連のマーケティングに応用する「ニューロマーケティング」という画期的な手法が今、確立されつつある。米カリフォルニア州バークレーに本社を置くニューロマーケティングの専門企業、ニューロフォーカス社(2011年にニールセンが買収)のCEOで、この分野の入門書『マーケターの知らない「95%」』(阪急コミュニケーションズ刊)を執筆したA・K・プラディープ氏に、本誌・知久敏之が話を聞いた。

                  *****

――ニューロマーケティングで何がわかるのか?

 脳波を計測することで、消費者が商品のマーケティングに関してどんな関心を持ち、どんな感情を持ち、何を記憶しているかを科学的に計測する。マーケティングは、実は通常の様々な活動で行われていることで、例えば雑誌の記事を書くときには、読者が何に関心を持つか、何に感情的に共感するか、何を目新しいと感じるか、そして最終的に記事の内容が理解されるかどうかを考慮している。我々はこうした従来のマーケティングに科学的な計測を取り入れた。

――なぜ脳科学をマーケティングに取り入れるのか?

 実は潜在意識と行動の関係は古代から我々の祖先が解き明かしている。本書では古代インドの演劇理論書『ナーティヤ・シャーストラ』のこんな言葉を引用した。

 両手がおもむくところへ、目はすでにおもむいている。
 目がおもむくところへ、心はすでに飛んでいる。
 心が飛んだところへ、気持ちはすでにおもむいている。
 気持ちがあることろへ、人生もまたおもむくだろう。

 5~6年前、飛行機の中で出会った友人から「自分は60億ドルもマーケティングに注ぎ込んでいるが、それで何が得られるかわからない」という話を聞いた。さらに別の機会に出会った脳神経科の医師に何をやっているかたずねたら、病院で患者の関心や感情、記憶を計測していると言う。それならば科学をマーケティングの問題解決に使ったらどうか、と思いついたのがこの会社を始めたきっかけだ。ニューロフォーカス社は、世界で最初にビジネスとしてニューロマーケティングを導入した会社だ。

――ニューロマーケティングを取り入れることで企業にはどんなメリットがあるのか? 

 5つの分野で活用できる。1つには「ブランドイメージ」だ。「ソニー」とか「東芝」、「サッポロ」といったブランドが消費者の深層心理でどんな意味を持つのか、その感情を会話で量るのは不可能だ。それを科学的に計測することができる。

 2番目に「製品開発」だ。ニューロマーケティングによって、脳が新製品のどんな部分を楽しみ、どんな部分を楽しくないと感じているか。例えばiPhoneを使うことが楽しいと感じているなら、それを持つことが楽しいのか、見ることが楽しいのか、ボタンを押すことが楽しいのか、それともボタンを押さずにタッチパネルで操作できるところが楽しいのか。それを計測して製品デザインに応用できる。

 3番目には「パッケージ」だ。例えば秋葉原でヨドバシカメラの店舗に入れば、そこには数万の商品が並んでいる。その中から1つの商品をどうやって選ぶのか。どんなパッケージが消費者の目を引くのか。それを理解することが企業の売上げ、収益に直接的に結びつく。

 4番目は「店舗環境」だ。店内には様々なものがある。写真、ディスプレイ、安売りの文字など。消費者は無数の情報に晒されている。そのうち何が効果的で何が効果的でないのか。商品を購入して店を出た消費者に、店内のどんな情報が購買の決め手になったかをたずねても、質問に答えることは難しい。継続的に脳波を計測していけば、何が消費者の購買行動を決定付けたか知ることができる。

 店舗環境をどうするか。苦労している企業は多い。素晴らしい製品を作り、素晴らしいパッケージを施し、素晴らしいブランドなのに、なのに店では売れない。それではすべての企業努力が水の泡になってしまう。

 最後には「広告」だ。テレビ、ラジオ、インターネット、フェースブックなどすべての広告を分析して何が効果的かを計測する。このように製品開発から広告、販売まですべての過程にニューロマーケティング
を応用することができる。

――ニューロマーケティングは日本の企業にとって有益か?

 日本の企業は新しいことを試すことに慎重だ。日本の市場は大規模な変革もするが、同時に変革に慎重でもある。科学的なニューロマーケティングの手法は、世界中の他のどんな市場よりもハイテクで先進的な日本の市場に合致している。企業の競争力に関わるので詳細は明かせないが、広い分野ですでにこの手法を取り入れている日本企業がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相「首脳外交の基礎固めになった」、外交日程終

ワールド

アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 5
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 8
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中