脳科学でマーケティングは進化する
『マーケターの知らない「95%」 消費者の「買いたい!」を作り出す実践脳科学』の著者A・K・プラディープに聞いたマーケティングの新たな未来
ニューロマーケティングの先駆者プラディープ氏
消費者は潜在意識で何を求めているか、何を買いたがっているか、脳波を測定して本当のニーズを解明する――。そんな脳科学の手法を、製品開発からパッケージ、広告展開までの一連のマーケティングに応用する「ニューロマーケティング」という画期的な手法が今、確立されつつある。米カリフォルニア州バークレーに本社を置くニューロマーケティングの専門企業、ニューロフォーカス社(2011年にニールセンが買収)のCEOで、この分野の入門書『マーケターの知らない「95%」』(阪急コミュニケーションズ刊)を執筆したA・K・プラディープ氏に、本誌・知久敏之が話を聞いた。
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――ニューロマーケティングで何がわかるのか?
脳波を計測することで、消費者が商品のマーケティングに関してどんな関心を持ち、どんな感情を持ち、何を記憶しているかを科学的に計測する。マーケティングは、実は通常の様々な活動で行われていることで、例えば雑誌の記事を書くときには、読者が何に関心を持つか、何に感情的に共感するか、何を目新しいと感じるか、そして最終的に記事の内容が理解されるかどうかを考慮している。我々はこうした従来のマーケティングに科学的な計測を取り入れた。
――なぜ脳科学をマーケティングに取り入れるのか?
実は潜在意識と行動の関係は古代から我々の祖先が解き明かしている。本書では古代インドの演劇理論書『ナーティヤ・シャーストラ』のこんな言葉を引用した。
両手がおもむくところへ、目はすでにおもむいている。
目がおもむくところへ、心はすでに飛んでいる。
心が飛んだところへ、気持ちはすでにおもむいている。
気持ちがあることろへ、人生もまたおもむくだろう。
5~6年前、飛行機の中で出会った友人から「自分は60億ドルもマーケティングに注ぎ込んでいるが、それで何が得られるかわからない」という話を聞いた。さらに別の機会に出会った脳神経科の医師に何をやっているかたずねたら、病院で患者の関心や感情、記憶を計測していると言う。それならば科学をマーケティングの問題解決に使ったらどうか、と思いついたのがこの会社を始めたきっかけだ。ニューロフォーカス社は、世界で最初にビジネスとしてニューロマーケティングを導入した会社だ。
――ニューロマーケティングを取り入れることで企業にはどんなメリットがあるのか?
5つの分野で活用できる。1つには「ブランドイメージ」だ。「ソニー」とか「東芝」、「サッポロ」といったブランドが消費者の深層心理でどんな意味を持つのか、その感情を会話で量るのは不可能だ。それを科学的に計測することができる。
2番目に「製品開発」だ。ニューロマーケティングによって、脳が新製品のどんな部分を楽しみ、どんな部分を楽しくないと感じているか。例えばiPhoneを使うことが楽しいと感じているなら、それを持つことが楽しいのか、見ることが楽しいのか、ボタンを押すことが楽しいのか、それともボタンを押さずにタッチパネルで操作できるところが楽しいのか。それを計測して製品デザインに応用できる。
3番目には「パッケージ」だ。例えば秋葉原でヨドバシカメラの店舗に入れば、そこには数万の商品が並んでいる。その中から1つの商品をどうやって選ぶのか。どんなパッケージが消費者の目を引くのか。それを理解することが企業の売上げ、収益に直接的に結びつく。
4番目は「店舗環境」だ。店内には様々なものがある。写真、ディスプレイ、安売りの文字など。消費者は無数の情報に晒されている。そのうち何が効果的で何が効果的でないのか。商品を購入して店を出た消費者に、店内のどんな情報が購買の決め手になったかをたずねても、質問に答えることは難しい。継続的に脳波を計測していけば、何が消費者の購買行動を決定付けたか知ることができる。
店舗環境をどうするか。苦労している企業は多い。素晴らしい製品を作り、素晴らしいパッケージを施し、素晴らしいブランドなのに、なのに店では売れない。それではすべての企業努力が水の泡になってしまう。
最後には「広告」だ。テレビ、ラジオ、インターネット、フェースブックなどすべての広告を分析して何が効果的かを計測する。このように製品開発から広告、販売まですべての過程にニューロマーケティング
を応用することができる。
――ニューロマーケティングは日本の企業にとって有益か?
日本の企業は新しいことを試すことに慎重だ。日本の市場は大規模な変革もするが、同時に変革に慎重でもある。科学的なニューロマーケティングの手法は、世界中の他のどんな市場よりもハイテクで先進的な日本の市場に合致している。企業の競争力に関わるので詳細は明かせないが、広い分野ですでにこの手法を取り入れている日本企業がある。