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中国産C919が世界の空に殴り込み

格安航空大手ライアンエアも関心を示した初の国産旅客機で、ボーイングとエアバスの独占体制に風穴を開けられるか

2011年7月1日(金)17時58分
トーマス・サンフ

注目の的 パリ航空ショーに展示された中国のC919(6月20日) Pascal Rossignol-Reuters

 航空機の生産はこれまでずっと、ボーイングとエアバスに牛耳られてきた。そこに参入し、米仏の2社独占体制に風穴を開けようというのが、中国国営メーカーの中国商用飛機(COMAC)だ。

 COMACは6月に開催された航空機見本市「パリ航空ショー」で世界に注目される存在になった。アイルランドの格安航空大手ライアンエアに中型旅客機「C919」を提供するという開発契約を結んだのだ。ライアンエアは現在、ボーイング機のみを採用している。

「市場にはAとBがある。エアバスとボーイングだ。ここにC、つまりCOMACが加わる」と、COMACの親会社である中国航空工業集団(AVIC)の広報担当者は語った。「この市場は大きい。誰もが食い込む余地がある」。ボーイングの試算では、2030年までの航空機市場の規模は年間4兆ドルだ。

 ライアンエアはボーイングにとって、欧州最大規模の顧客。そこが航空機を買ってくれるとなれば、COMACは利益率が高い「中型の単通路型機」市場への足掛かりを得られる。中型単通路型機は今後20年間に生産される航空機の約半分を占める、とボーイングはみる。エアバスの予想では70%と、さらにその割合は高くなる。

 エアバスもボーイングもパリ航空ショーにおいて、新たなライバルの出現を認めた。「新しいメーカーが登場することは分かっている」と、エアバスの広報担当ジェームズ・ロッカは言う。「航空交通量は毎年5%増えており、これ以上、2社独占体制が続くとは思っていない」

 ボーイングの民間航空機部門CEOのジム・オルボーも記者会見で、独占体制が終わったことに同意。ボーイングとエアバスはカナダやブラジル、ロシア、そして中国の新規メーカーと競争することになると語った。

武器はやはり低価格

 市場の変化を見越した中小規模のメーカーは互いに協力・提携して、参入を図ろうとしている。カナダのボンバルディアとCOMACによる部品の共同調達はその一例だ。

 COMACの単通路型機C919は「エアバスA320とボーイング737の直接のライバルになる」と、ボンバルディアの広報担当ミリアネラ・デ・ラ・バレラは言う。「独自の航空機と生産体制を作り出すという彼らの目標は、非常に現実的だ。だからこそ私たちは彼らと提携を結んでいる」

 もっとも、小型機市場に強いボンバルディアにとって、ライアンエアと契約を結んだCOMACはライバルにもなりかねない。「ボーイングやエアバス以外の現実的な選択肢が出来たことは喜ばしい」と、ライアンエアのマイケル・オリアリーCEOはパリ航空ショーで語った。「わが社は200席型のC919の開発に大きな関心をもっている」

 定評あるエアバスとボーイングではなくCOMAC機の採用に魅力を感じるのは、その安さゆえだ。C919の価格はまだ分からないが、COMACが欧州市場に参入するには低価格が必須だろう。同社はさらに、世界で最も成長の速いアジア太平洋地域にも目を向ける。

 今のところはアジアでも、最大の航空機メーカーはボーイングとエアバスだ。しかし間違いなく、COMACはアジアでの地の利を生かして彼らに挑戦を仕掛けていくだろう。

 ボーイングの市場調査によれば、2011〜30年でアジア太平洋地域には1万1450機、総額1兆5000億ドル分の航空機が新たに導入される見込みだ。対する欧州市場では、2030年までに7550機が新規納入され、その総額は8800億ドルだ。

GlobalPost.com特約

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