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中国経済

中国政府の国内石炭業界いじめ

中国で痛い目に遭っているのは外国企業だけじゃない。政府は民間に富が集中するのを恐れている

2010年7月27日(火)16時00分
アイザック・ストーン・フィッシュ(北京支局)

 英豪系資源大手リオ・ティントの産業スパイ騒ぎやグーグルの検閲問題──外国企業は中国相手の商売で苦労している。だが中国政府の動きに神経をとがらせているのは外国企業のCEOだけではない。国内の民間石炭会社の経営者も同じだ。

 手っ取り早く儲かる石炭業界は、環境破壊と腐敗体質、危険な労働環境で悪名をとどろかせてきた。政府はこうした問題の改善を理由に国有化を推進し、過去3年で炭鉱数を約1万3000に半減。閉鎖された炭鉱の大半は民間経営のものだと業界関係者は言う。

 経済危機によって炭鉱の需要が減った今、地方政府は小規模の石炭会社に身売りや破産を促す動きに出ている。石炭会社の認可更新を難しくする規制も設けられた。

 中国政府は弱小企業を整理して模範的な企業(国有企業のこと)の育成に努めていると主張するが、その本音は民間の富が制御できないほど大きくなる前に歯止めをかけたいというところにある。自分たちの言いなりになる国有企業を支援することで、政府は経済に対する影響力を強めたいのだろう。

石油、鉄鋼、航空業界も標的に

 航空会社や石油精製会社、鉄鋼会社も石炭会社と同様な逆風にさらされている。08年に地方政府が鉄鋼会社を時価より大幅に安い価格で買い取ったケースがあるが、その背景には政府がその会社経営者を「目の上のたんこぶ」と見なしていたという事情があるらしい。

 民間企業より公的部門を重んじるという中国政府の姿勢がうかがえるエピソードだ。「経済というよりイデオロギーの問題と捉えるべきだ」と北京大学の夏業良(シア・イェリアン)教授(経済学)は言う。

 政府は、石炭業界で米大手ピーボディ・エナジーなどと張り合える大手国有企業の設立をもくろんでいるが、中国の石炭会社は規模が小さいため実現はほぼ不可能だ。中国最大手の神華集団の年間産出量は昨年国内で消費された30億トンの約1割にすぎない。

 炭鉱の国有化が進んでいるからといって汚職が一掃されたわけでもない。山西省の炭鉱部門の当局者は今年4月、北京でマンションを35戸も購入できる額の公金を着服していたとして20年の禁固刑を宣告された。石炭会社経営者の中には、この話をヒントに不動産業へのくら替えを思い付いた人もいるかもしれない。

[2010年7月28日号掲載]

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